資金使途違反に注意

銀行員と経営者の面談 銀行融資

必ず聞かれる資金使途

金融機関は企業から融資申し込みがあると、必ず「何にお使いですか?」と資金使途を確認をします。子供が「おこづかいちょうだい」と言ってきたら、親は「何に使うの」と聞くでしょう。それと同じです。

資金使途の確認は融資審査の基本です。資金使途が明確になれば返済方法等の条件も決まります。例えば、機械を購入するなら、それによって得られる利益と減価償却費が返済原資となりますし、返済期間は機械の耐用年数となります。ジュースやビールを取り扱う企業であれば、夏場の需要増加に備えて多く仕入れる必要があります。その場合、夏場の短期間で消費されますから、返済期間は数カ月の短期となります。

だから金融機関は経営者から何にいくら必要なのかの説明、そして必要書類(試算表、資金繰り表、経営計画書等)の提出を求め審査を行います。

金融機関の信用を失う

しかし、金融機関に説明した本来の資金使途と違うことに使っていることがあります。運転資金で借りたはずなのに車両や機械を購入していた、材料や商品仕入れ資金なのに社長個人の趣味に使われていた、胡散臭いところに投資していた等です。家族で海外旅行に行ったなんて自慢する経営者もいます。

金融機関では「融資」や「貸出」ではなく「与信(よしん)」という言葉をよく使います。相手企業に対してどれだけの金銭的な信用を供与するのかという事であり、融資をしたという事はその企業を信用したという意味になります。それを裏切って融資申し込み時と異なる使い方をした場合、それは資金使途違反となります。信用を裏切るわけですから、一気に信頼関係は崩れてしまいます。

資金使途違反が明らかになれば金融機関は次の対応をしてきます。

一括返済を求める

金融機関は企業に対して一括での返済を求めることがあります。とはいえ実際には、それだけの資金が手元に残っていることはまずありませんから、実際にはほとんどありませんが。

しばらく融資を控える

一括返済は免れたとしても次の融資は控えると言われるでしょう。ではいつまで待てばいいのかは、金融機関の考えや企業の状況にもよりますから一概には言えません。ただ、かなり厳しい対応を取られるかもしれませんから、金融機関からの資金調達を期待できない資金繰りを考えた方がいいでしょう。

資金使途違反なんかで信用を失ったら、長期に渡って銀行からの資金調達に影響を与える可能性があります。絶対にやめましょう。特に保証協会付融資に依存している中小企業が、信用保証協会の信用を失ったら資金繰りに極めて大きな影響を与えてしまいます。どこの金融機関から融資を申し込んでも、結局のところ信用保証協会の保証が必要との回答であれば、融資はほぼ期待できないのです。

業績面が問題で融資が受けられない場合、企業は金融機関の信用を失っているわけではありません。今後の努力次第で資金調達も可能です。

資金使途違反は金融機関を騙す行為です。申し込み時には本当の資金使途を伝える、そしてそれを守るようにしてください。

融資審査

資金使途違反をさせる銀行員

これまで資金使途違反をしてはいけないと申し上げましたけど、銀行員がしてくることもあります。よくあるのが次のケースです。

設備資金を運転資金で申し込み

自分のノルマ達成のために粉飾決算を要求する銀行員に出会ったことがありますけど、本来の資金使途とは違う内容で申し込みをさせる銀行員がいます。

本来は設備資金なのに運転資金で申し込みさせるケースです。次の内容は実際にあったことです。

設備資金の一部を借りたいと取引銀行に相談したところ、担当者から「設備資金だと融資審査にも手間がかかるし私も書類作成が面倒です。運転資金のほうが簡単だし、融資実行までそんなに時間がかかりません。運転資金ということにしましょう」と言われ、信用保証協会には運転資金として保証を申込み、必要な設備を購入することができました。

しかし、運転資金とはいっても実際には設備資金なので手持資金にゆとりはありません。返済期間も運転資金として5年程度で借りていたため、毎月の返済額が負担となり資金繰りに余裕がなくなっていきました。

さらに事業規模拡大によってより資金が必要となったことから、信用保証協会に運転資金の保証を再度申し込みました。運転資金での保証申し込みがあってからそれほど経っていないこともあり、信用保証協会からはお断りの回答がありました。「前回あれだけ運転資金で保証したのですからもう十分でしょう」とという考えでした。

前回、設備資金で融資をしてくれた銀行は、保証が出ないのなら融資はできないという回答でした。

信用保証協会の判断は当然でしょう。その企業に必要な運転資金をはるかに超えた申し込みをすれば、前回融資された資金の使い方に問題があるのではと不審に思われてしまいます。

その企業は資金繰りに困ってしまい当社に相談してくださいました。ちょうどご紹介できる銀行があり、そこがプロパー融資で対応してくださったことで資金の問題はとりあえず解決しました。

運転資金で申し込みさせる銀行員は意外といる

設備資金を運転資金と偽る提案をする銀行員は意外といるようです。面談相談でお会いする経営者から時々聞きますから。

やはり本来の資金使途で資金調達すべきです。そもそも資金使途違反ですし、後々の資金調達にも影響するかもしれません。銀行員が提案してきたら注意してください。

銀行が本来の資金使途と違う申し込みを勧めてきたとしても、資金繰りの面からもふさわしくありません。運転資金よりも設備資金は一般的に返済期間は長期になります。月の返済額も違ってきますから資金繰りに影響が出ます。

また、信用保証協会との関係は重要です。最近は金融機関もプロパー融資で対応してくることが増えてきました。現時点ではすべてプロパー融資であったとしても、業況が悪化してくれば利用する機会はあります。1つぐらい金融機関とケンカ別れしてもかまいませんが、信用保証協会とは良好な関係を維持しておかなければなりません。資金使途違反なんかで関係が悪化することは避けましょう。

おかしなことを言ってくる担当者でしたら、他の銀行や信用保証協会に相談してもいいと思います。もちろん当社に相談してくださってもかまいません。

金融機関から「この方法なら楽に資金調達ができますよ」と言われてしまうと従いたくなるのは理解できます。金融機関がそう言うなら間違いないだろうと思うでしょうし。ただ、そういう言葉に乗せられないように注意してください。