経営者保証に依存しない融資が加速

経営者保証 銀行融資

「経営者保証に関するガイドライン」が2014年2月から運用され、徐々にですが経営者の連帯保証を求めない方向に進んでいます。

そして来年からは今まで以上に経営者保証を求めない融資が増えていきそうです。

経営者保証に依存しない融資慣行の確立加速

これまで経営者保証は、経営の規律付けや信用を補完する目的で求められてきました。それによって資金調達が円滑に進むメリットは確かにあるでしょう。しかし、思い切った事業展開を躊躇させる、あるいは円滑な事業承継を阻害する等の問題も存在します。

そこでこのような課題を解決するために、経営者保証ガイドラインが作成され活用促進を進めてきましたが、経営者保証に依存しない融資慣行をさらに加速させるため、経済産業省、金融庁、財務省による連携の下、「経営者保証改革プログラム」が策定され実行していくことになります。

大雑把に申し上げると次のとおりです。

経営者保証を徴求しないスタートアップ・創業融資の促進

①創業から5年以内の者に対する経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設

②日本政策金融公庫等における創業から5年以内の者に対する経営者保証を求めない制度の要件緩和

③商工中金のスタートアップ向け融資における経営者保証の原則廃止(22年10月~)

④民間金融機関に対し、経営者保証を徴求しないスタートアップ向け融資を促進する旨を要請

民間金融機関による融資、保証徴求手続の厳格化、意識改革

①金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合、保証契約の必要性について事業者・保証人に対して個別具体的に説明することを求め、その結果等を記録することを求める。

② ①の結果等を記録した件数を金融庁に報告することが求められる。

③金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置する。

④状況に応じて、金融機関に対して特別ヒアリングを実施。

信用保証付融資、経営者保証の提供を選択できる環境の整備

①経営者の取組次第で達成可能な要件を充足すれば、保証料の上乗せ負担による経営者保証の解除を選択できる信用保証制度の創設

②流動資産(売掛債権、棚卸資産)を担保とする融資(ABL)に対する信用保証制度においては、経営者保証の徴求を廃止

③信用収縮の防止や民間における取組浸透を目的に、プロパー融資における経営者保証の解除等を条件に、プロパー融資の一部に限り、借換えを例外的に認める保証制度(プロパー借換保証)の時限的創設

詳細な内容については「経営者保証改革プログラム」を参照してください。

経営者保証に依存しない融資が増えてくる

この経営者保証改革プログラムを読んでいただければ分かりますが、経営者保証が必要な場合は説明することが求められ、さらにその記録をして金融庁に報告しなければなりません。それだけでも金融機関としては相当面倒なことでしょう。そして金融庁には経営者保証専用相談窓口まで設置されます。

過去には第三者保証が求められていたものが今ではほとんどなくなったように、これからは経営者保証が求められない融資が一気に進んでくることが期待されるでしょう。

経営者保証を求めない3つの要件

経営者保証に関するガイドラインには、経営者保証を求めない要件が3つ書かれています。

法人と経営者個人の明確な資産分離

法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者個人の間の資金のやりとりを、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人個人の一体性の解消に努める。

中小企業では、法人も個人も一緒という経営をされていることがよくあります。経営者の中には自社の口座にあるお金も自分のもののように感じて手を出してしまう方がいます。法人の経理と個人の家計はしっかり分けましょうということです。

例えば次のような経理処理をしていませんか。

  • 法人から経営者個人への貸付金や仮払金がある
  • 個人名義の事業用資産がある
  • 過大な役員報酬によって赤字決算になっている

もしこのような経営をされているのであれば、次のような改善が必要です。

  • 新たに貸付金を発生させず減少させるようにする
  • 経営者個人で所有している不動産を貸しているのであれば、適正な地代を徴収する
  • 赤字であれば役員報酬を削減する

財務基盤の強化

経営者保証は主たる債務者の信用力を補完する手段のひとつとして機能している一面があるが、経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を円滑に調達するために、主たる債務者は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。

ガイドラインには難しく書いてありますが、債務者区分が正常先であるということです。

つまり経営者保証がなくても金融機関が融資をしたくなる財務内容にする、あるいは目標にしなければなりません。

しかし、赤字決算が続いていたり、債務超過に陥っていたりしても、企業の事業価値が失われておらず、経営改善によって数期で正常な状態まで回復すると判断できるのであれば、経営者保証は不要となる可能性は残されています。

経営の透明性確保

資産負債の状況(経営者のものを含む)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。

中小企業では自社の経営状況を金融機関に開示するのは、税務申告が完了したときに決算書、融資が必要な時に試算表を提出する程度でしょう。しかし、経理作業の遅れから最新の経営状況が分からない、あるいは粉飾等によって信頼性が低いことも多いのです。それでは金融機関は安心して融資をできません。

そこで金融機関が求めた時、試算表等でいつでも正確かつ最新の経営状況が分かるよう情報提供をする必要があります。

金融機関から求められなくても、企業自ら率先して試算表、資金繰り表を定期的に提出しましょう。

3つの要件をクリアする経営を

このように経営者保証を必要としない融資が増えてくるでしょうが、もちろんすべての企業が対象とはなりません。やはり経営者ガイドラインの3つの要件をクリアできる経営をしていくことが重要となります。

必ず3つすべてをクリアしなければならないわけではありませんが、法人を私物化したり、経営情報を隠したり不正確では経営者保証解除は困難でしょう。

経営者保証を提供したくないのであれば、法人と個人の明確な分離、そして経営の透明性確保だけは実施しましょう。2つ目の財務基盤の強化は早期には難しいとしても、残り2つは社内で実施できることです。

また、経営者保証に関係なく、3つの要件をクリアする経営をしていくことが、金融機関から高い評価を受けるのですから、今後の安定した資金調達のためにも3つの要件を目標としていきましょう。

担保や保証に依存しない融資が一層進んでいきます。ということは、企業は経営計画書を作成し、定期的に進捗状況を金融機関担当者に報告していく、そんな付き合い方がより求められていくのです。