預金担保融資

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担保といえば不動産をイメージされるかと思いますが、他にも件数的には少ないでしょうが有価証券(国債や上場企業の株式)、そして預金(主に定期預金や定期積金)も担保になります。

今でもある預金担保融資

最近の預金金利は極めて低いですから、定期預金をしても金利は普通預金とほぼ一緒です。余裕資金を定期預金で運用するメリットはありません。そもそも定期預金をするほど資金繰りに余裕がない企業が多いでしょう。やるにしても、金融機関(特に信用金庫や信用組合)からお願いされて仕方なく、あるいは納税(主に消費税)資金を積み立てる目的で定期積金をする程度だと思います。

そのため、預金担保融資は業歴の浅い企業ではほとんど見られないのですが、長い企業では出会う確率が高くなります。それは次の理由からでしょう。

金融機関からのお願いされて

業歴の長い企業なら資金繰りに余裕のある時代もあったでしょうし、金融機関からお願いされて定期預金をしていたこともあったでしょう。

しかしその後、資金繰りが悪化し解約をしようとしたところ、預金残高の減少を避けたい金融機関から「預金を担保にご融資するのでそのままにして欲しい」と頼まれ、それ以来ずっと継続していることがいまだにあるのです。

私の銀行員時代にも定期預金の解約を阻止するために、預金担保で融資をするのはよくありました。

経営者からすれば、今後の融資取引に影響が出るのが不安で、そのままにしているということなのでしょう。

融資金の一部を定期預金に

最近はありませんが、以前は融資した資金の一部を定期預金にするよう求めることがありました。これは金融機関が保全強化や取引採算性の改善を目的にしたものです。

そうして作られた定期預金は、いつの間にか担保あるいは実質的な担保になっているのです。

なお、融資した資金は企業が本来の資金使途であれば自由に使ってかまいません。定期預金の強要は明確に禁止されており、優越期的地位の濫用に該当します。もしそのような要求があったら必ず断ってください。

預金担保融資のメリットとデメリット

預金担保融資のメリット・デメリットは次のようになるでしょう。

・メリット

金融機関との関係悪化に悩まないで済む

中小企業の多くが、自社の資金繰りを金融機関に大きく依存する体質です。そのため、経営者の中には金融機関の機嫌を損ねることは避けたいと考える方もいるでしょう。そのような方にとっては、預金を解約せず融資を受ける、または預金担保融資を継続すれば、そんな悩みからは解放されるかと思います。

それで安心できるというのなら、メリットと考えることは一応できるかもしれません。

ただ、金融機関から感謝はされても、今後の融資審査で便宜を図ってもらえるわけではありません。

定期預金利息を受け取れる

定期預金は他の預金よりも高金利という特徴があります。定期預金1,000万円、定期預金金利1%、普通預金は0.1%、そして満期まであと1ヶ月という時、急に資金が必要になったとしましょう。

1ヶ月もすれば10万円の利息が受け取れます。途中解約すれば普通預金金利が適用され、年間でも1万円です。

そこで、定期預金金利1%に貸出利息として1%を上乗せした2%で融資を受けたとします。1ヶ月で支払う利息は16,666円(=1,000万円×2%×1/12)です。

このように預金の満期が近い場合、かつ短期間の借入れなら預金担保融資のメリットはあります。

ただ、みなさんご存知のように超低金利ですから、今はあまりそのメリットはないでしょう。

預金額以上に資金調達できる可能性

代表的な担保といえば不動産ですが、いくら評価額が高いとしても、処分してみないといくらになるか分かりません。それに換金するまで日数を要するし費用もかかります。しかし、預金は融資が焦げ付いてもすぐにそして確実に回収できる優良担保です。

まだ担保提供していない定期預金があるのなら、優良担保を交渉材料に預金額以上の融資が出ないか交渉することが考えられます。もし、預金額を超える融資を受けられるのならメリットはあります。

差額分が無担保であれば、信用保証協会の保証枠を温存できます。

ただ、資金繰り悪化による預金解約時に、金融機関がそのような提案をしてくるかといえば、そう多くはないかもしれません。もし、提案を受けたら前向きに検討してください。

・デメリット 

支払利息の増加

最大のデメリットはこれでしょう。余計な支払利息が発生することになります。

先ほど述べたように預金額以上の融資を受けられるのなら、企業側にもメリットはあるでしょう。しかし、預金と同額であるなら定期預金を解約して資金繰りに充てれば、余計な支払利息は発生しません。

損益計算書を見ると分かりますが、支払利息は営業利益の下に計上されますから、経常利益を減らすことになります。借入金の返済能力を悪化させることになります。

中小企業は自己資金が不足し、金融機関からの融資によって資金調達しています。したがって、支払利息が結構な額になることも多く、せっかく稼ぎ出した営業利益を失うことも少なくありません。

財務内容が悪化

金融機関から評価される企業になるためには、良好な決算内容にするべきです。そのためにも、預金担保融資は預金と相殺する、預金担保融資を提案されているなら預金を解約する方がいいです。

支払利息が増加することで損益計算書の内容が悪化しますし、貸借対照表には預金と借入金がともに計上されます。つまり、EBITDA有利子負債倍率や自己資本比率等の財務指標は悪化します。

特に業績悪化で悩んでいる企業は、金融機関との関係に注意するでしょうが、それならなおさら、財務内容改善のためにも預金担保融資は行わない方がメリットはあります。

金融機関からは預金も融資もそのままにして欲しいと言われたとしても、「収益力回復のために経営改善を実施していきますので、支払利息削減に協力してください」と伝えましょう。そう言われてしまえば、金融機関も協力せざるを得ないでしょう。

企業にメリットはない

このように預金担保融資は企業側にはほとんどメリットはありません。特に預金と同額の融資しか受けていないのであれば全くありません。支払利息を無駄に負担するだけです。

担保に取られている預金と相殺するだけで簡単に支払利息を削減できるのです。削減できた分を返済に充てる、手持資金として蓄える、広告宣伝や交際費に使う等、前向きなことにいろいろ使えます。

ここまで申し上げても、「金融機関との付き合いに影響が出るのでは?」と不安になる経営者もいるでしょうし、そのような意見に同調する専門家もいるかもしれません。

その意見に理解はできるのですが、やはり相殺することで余計な支払利息削減により経常利益が改善されます。金融機関のために経営しているわけではありません。自社の経営を優先していきましょう。

金融機関からの抵抗はあるかもしれません。それでも粘り強く交渉してください。

特に経営が悪化傾向にある企業であれば、相殺することで決算書の内容が改善されるのですから、金融機関にもメリットがあると説明しやすいかと思います。

ただ、いきなり実行するのではなく、借入金の期日に相殺させて欲しいと早めに伝えてはおきましょう。

実質担保と見なされているかも

担保に入っていない定期預金であれば、企業はいつでも解約して自社の資金繰りに充てることができます。原則としては満期日前には解約できないことになっていますが、実質的には中途解約は普通にあることです。

しかし、実際に解約を申し込むと強い抵抗に会うことがあります。それは融資審査の材料にしているからです。

過去の審査時、稟議書の中に「預金取引において定期預金1,000万円がある。それは担保にはなっていないが今回の融資5,000万円の保全として考えることができる」と書いていたりするのです。

このように担保として提供していないものの、実質的な担保扱いになっている預金を解約すれば、実質担保として融資した前提が崩れてしまいます。保全面が弱くなるのですから抵抗してきます。

そして、定期預金の解約は資金繰り悪化のサインだと金融機関は知っています。その頃には当座預金や普通預金の残高も減少しているでしょう。だからなおさら抵抗してくるのです。

特にこれからリスケジュールを考えているのなら、その前には定期預金は解約しましょう。交渉開始後は極めて困難となります。

だからこそ、定期預金はしないことです。するにしても融資取引のない金融機関でするべきでしょう。