経理部長が突然退職

銀行融資

私が直接担当していたわけではありませんが、以前勤めていた会社の顧問先に、数年後には上場するという非常に成長力のある企業がありました。

経理部長は元富士銀行(現在、みずほ銀行)の支店長経験者で、社長や経理部の女性からも信頼される、非常に優秀な方でした。

しかし、名刺交換をしてから1年が過ぎた頃だったのですが、その経理部長が突然退職しました。銀行を退職したばかりでまだ定年でもありません。非常に勢いのあった会社でしたが、それからしばらくして業績は急激に悪化し、上場どころではない状態にまで経営は悪化、退職から1年後には倒産しました。

経理部長が突然退職する理由

経理という仕事は、役員報酬をはじめ給与データ、現預金や借入残高、納税額等、多くの重要な情報を取り扱っています。経理を担当する社員は経営者と共に決算書の作成や、資金繰り管理をしているはずです。

もう先がないと悟った

経理部長でかつ能力の高い方でしたら、経営者よりも業績の見通しや資金繰りに敏感であることも多いでしょうから、業況が悪化して資金繰りの見通しが立たないと判断して突然退職するというのは、あり得ることです。

経理に詳しい社員がいなかったとしても、税金滞納、借入金返済が遅れている、資金繰りが常に苦しい、毎月赤字である等が発生していれば、自社の将来性が怪しいと感じるでしょう。

面倒な作業が増える

そのような経営状態になれば、通常の経理業務以外にも、金融機関との融資やリスケジュール交渉において、通常よりも明らかに多くの必要書類作成が求められます。資金繰り表だけでも難しく感じるでしょうし、経営計画書なんてどうしたらいいのか分からないかもしれません。

他にも税金や社会保険料を滞納していれば、税務署などと分割納付を交渉しなければなりません。これもかなり面倒なケースが多く、経理社員には負担となるでしょう。

ひょっとしたら社長から金融機関受けする決算書にしろと、粉飾決算を行うよう指示が出ているかもしれません。最悪の場合は逮捕される可能性もあります。

それらの理由から突然退職することはありえるのです。

金融機関は警戒します

そのため、経理社員の退職は、今後の業績及び資金繰りがかなり危険な状況になっていて、近いうちに倒産する可能性が極めて高いことから「その前に逃げ出したのでは」と、金融機関は注意した方がいいと考えます。

若手社員やアルバイトの1人が退職しても金融機関がいちいち問題にすることはありませんが、経理担当者でも特に経理部長といったキーパーソンが定年でもないのに突然退職すれば、金融機関は何かあるなと警戒することになります。

私が銀行員だった時にはありませんでしたが、その後に勤めた会社の顧問先でそういうことは何度かありました。

独立してからも、「経理の責任者が突然退職することになったので経理業務の一部を手伝って欲しい」とご相談を受けることがありますが、やはり粉飾はしていますし業績はよくない事が多いですね。

中小企業でも小規模な会社の場合、経営者や奥さんなど家族が経理をしていることも多いのですが、それなら突然退職することはあまりないと思いますが。

経理社員が退職する場合は、退職そして引継ぎをしっかり行っており今後の経理業務に影響がないことを、金融機関担当者に説明しておく方がいいでしょう。経営に何ら問題はなく、ただ単に個人的な理由で退職するだけなのに、銀行に余計な警戒をされずに済むでしょうし、担当者も安心すると思います。

最初にご紹介した企業のように、経理部長が退職するほど経営が悪化する前に抜本的な経営改善を行う必要がありますし、粉飾決算なんかせず経営者が金融機関と交渉しなければなりません。