資本性借入金の提案

資金繰り

資本性借入金(あるいは、資本性ローン、資本性劣後ローン)がやや注目されています。とはいっても利用が急増しているわけではありませんが、当社顧問先でも資本性借入金の提案を受けています。

資本性借入金とは、その名の通り借入金ですし会計上は負債として扱われますが、「資本性」とあるように法的倒産時に他の負債より返済順位が劣後する性格を持つことから、一定の条件をクリアすれば金融機関は資本として扱うことができる借入金なのです。

コロナウイルスやその他の理由による業績悪化で過小資本あるいは債務超過に陥っている企業が、この資本性借入金を利用することで、悪化した財務の安全性を改善させることができ新たな資金調達の可能性が出てきます。

※金融庁ホームページ「資本性借入金の積極的活用について」より

図表のように「資産<負債」では債務超過ですから金融機関の姿勢は消極的になります。そこで借入金の一部を資本に準じた取扱いとすれば「資産>負債」と改善され、金融機関の評価はアップすることになります。

資本性借入金については、2004年2月に金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)の改定時に紹介されていますし、東日本大震災の被災企業への支援策として活用推進が図られてきましたが、あまり利用は増えませんでした。

しかしコロナ危機の中、中小企業の財務体質改善、長期的な資金繰り支援策として、資本性借入金が注目され、日本政策金融公庫だけでなく、取扱いに力を入れている民間金融機関も徐々にですが増えてきました。

■資本性借入金の判断基準
金融機関が借入金でも資本と見なすことができる条件として、金融庁は次の3つを判断基準としています。

・償還条件:償還期間は5年超、期限一括償還が原則。または同等に評価できる長期の据え置き期間が設定されている必要があります。
・金利設定:原則として配当可能利益に応じた金利設定。赤字なら利子負担が抑制されるような仕組みが必要です。
・劣後性:法的破綻時の劣後性の確保。法定な破綻となってしまった場合、他の債権者と比べて、金融機関の元金や利息の回収が後回しになることが約束されている必要があると考えればいいでしょう。

■メリット・デメリット
大きなメリットはこの二つでしょう。

・資金繰り改善:長期の期限一括返済ですから資金繰りが改善されます。
・財務体質の改善:負債を資本(自己資本)と見なせますから、財務の安定性が向上します。

しかし、デメリットもあります。

資本金は借入金とは違い、出資したら返済してもらうことはできませんし、配当は利益が出ていれば多くもらえるでしょうが、赤字であれば配当は少ないあるいは無配となるでしょう。それと近い性格の借入金ですから次のデメリットがあります。

・原則、繰上返済ができない:したがって資金繰り改善後も金利負担が続きます。
・業績連動型の金利設定:通常の利息と異なり、業績が良いと高い金利負担となります。
・あくまで借入金:資本性とはいっても、借入金であり期日には返済する義務があります。

それ以外にも計画書の作成が求められ、通常の融資より手間がかかると思います。

■対象となる企業
資本性借入金はどの企業でも利用できるものではありません。5年超返済がなされないですし利息も業績に連動しますから、対象となるのは現時点での業績は悪化していても今後の再生が見込める企業です。

自然災害や経済危機前は利益が出ており、安定した経営をしていた企業なら、時間をかければ再生できる可能性は高いと思います。それに加えて、透明性が高い情報開示、実現性の高い経営改善計画の策定、企業と金融機関との対話がしっかりできている、そんな企業なら金融機関も資本性借入金を使って最後まで支援する覚悟ができるでしょう。