実態貸借対照表

銀行融資

金融機関は安全性を重視

金融機関は融資先の決算書を分析する際、借入金の返済能力や経営の安全性を重視する傾向にあります。

返済能力でいえば、キャッシュフロー計算書にあるフリーキャッシュフロー(簡易キャッシュフローなら、税引後当期純利益+減価償却費)が、年間返済額を上回っているか、そして借入金残高を何年で返済できるかは重要な指標です。

そして安全性も非常に重要です。代表的な財務指標として自己資本比率があります。例えばこのような貸借対照表があったとしましょう。

今この企業は純資産(自己資本)が29,000千円のプラスです。「資産合計>負債合計」の状態であり債務超過には陥っていません。

自己資本比率は25.9%(=29,000千円÷112,000千円)ですから、業種にもよりますがそんなに悪くもないかなと思います。

金融機関にとって債務超過であるか、そうでないかは極めて重要です。なぜなら、資産の部に計上されている債権や設備等をすべて売って現金化し、それですべての負債を返すことができるかどうか、できるのであればまだ融資がしやすいといえるでしょうし、もし債務超過でそれができないのであれば、これ以上の融資は危険、返済してもらえないのではと考えてしまうからです。

金融機関は債務超過(資産<負債)を嫌い、資産超過(資産>負債)の企業を好きになるのは当然のことなのです。

実態の数字もチェック

だからといって、企業から提出された決算書の数字をそのまま信用することはしません。資産として計上されているものが、本当にその価値があるのか、計上された金額で現金化できるのか、疑って見なければならないケースが多いからです。

例えば、この企業の平均月商が10,000千円だったとしましょう。

売掛金は月商の2ヶ月分ですから残高的には問題ありませんが、回収不能債権が含まれているかもしれません。

商品は5カ月分あります。通常で考えるとやや多いと考えられます。架空の商品を計上している、すでに販売不能となっているような不良在庫があるかもしれません。

貸付金は1,000千円あります。金額や貸付先にもよりますが、返済されないケースが多いです。

機械から工具器具備品についても、減価償却の未計上によって実態よりも大きい金額が載っていることがあります。

確認した結果、次のような問題点があったとしましょう。
・商品に架空在庫が30,000千円あった
・貸付金1,000千円はもう何年も返済してもらえていない
・機械と車両運搬具に減価償却未計上が合わせて10,000千円あった

この分だけ資産価値が無いと判断し、純資産を計算し直すと、

純資産合計29,000−(30,000+1,000+10,000)=-12,000千円

実態は12,000千円の債務超過と判明しました。

自社の貸借対照表が見た目は債務超過でなかったとしても、実態はどうなのか調べてみるといいでしょう。

債務超過だからと直ちに新規融資が不可能になるわけではありません。プロパー融資では難しいとしても、信用保証協会の保証が出れば融資は可能です。

債務超過といっても次のような理由もあるでしょう。
・創業間もないため赤字によって債務超過になった
・高額の設備投資が続き、しかも定率法であるため当初の減価償却費が大きく、その結果として赤字かつ債務超過になった

当社の顧問先でもそのような債務超過にある企業なら、特に問題なく資金調達はできています。

しかし、やはりプロパー融資を目指すなら債務超過は避けたいですし、実態も含めて債務超過にあるとしたら、これまでの経営は赤字で資本金を食いつぶしている結果です。早急にこれまでの経営を見直していくことが必要となります。