日本政策金融公庫は中小企業であればぜひお付き合いして欲しい金融機関です。なぜなら、次のような特徴があるからです。
日本政策金融公庫の特徴
日本政策金融公庫(以下、公庫)は株式の100%を政府が保有する政府系金融機関です。そのため、民間金融機関は自行の利益を優先しますが、(公庫だって利益は大切ですが)それ以上に中小企業の資金繰り支援が優先されます。
創業支援に熱心
創業融資はリスクの高い融資です。起業するときの資金調達は公庫をイメージする方も多いでしょう。
金融機関はこれまでの実績がない企業への融資には慎重になりがちです。民間金融機関も頑張ってはいますが、結局は信用保証協会を利用した融資が基本です。
しかし、公庫は高い実績を誇りますし、2024年以降は自己資金要件がなくなりました。もちろん申し込みができるというだけで、自己資金不足で融資が出ない場合もあるでしょうが、以前に比べると創業融資の申し込みがしやすくなっています。
小規模企業も利用しやすい
小規模事業者が利用できる融資制度としてマル経融資(正式には小規模事業者経営改善資金)があります。
商工会議所や商工会の経営指導を受けている小規模事業者が、経営改善のために必要な資金として利用できます。
常時使用する従業員が商業・サービス業(宿泊業及び娯楽業を除く)なら5人以下、製造業その他にあっては20人以下が該当します。
上限2,000万円、担保や保証人は不要です。信用保証協会も不要です。経営指導をしている商工会議所などが公庫に推薦を出すため、やや審査は前向きになりやすいメリットがあります。
非常時に頼りになる金融機関
創業時だけではありません。民間金融機関が消極的になるような融資案件に対しても、ただちに断るのではなく、経営者の相談内容をよく聞き、そのうえで融資判断してくれることが多いと思います。
経済危機や自然災害時
私が起業してから大きな経済危機や自然災害といえば、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2020年の新型コロナ、2024年には能登半島地震が発生、企業経営に大きなダメージを与えました。これ以外にも至る所で地震や台風などが発生し、被害を受けた企業は少なくないでしょう。
10年に1回は、中小企業の経営に影響を与える出来事が起こると考えたほうがいいのかもしれません。
大規模な自然災害や世界的な不況が日本を襲えば、深刻な経営悪化に見舞われる中小企業は急増します。民間金融機関がプロパー融資を実行するには、かなりのハイリスクとなりますから慎重な姿勢となります。これはある程度は仕方がないことでしょう。
このように中小企業の大きな影響を与える出来事が発生すると、公庫は特別貸付で資金繰りを支援します。危機に直面している時は、民間金融機関だけでは対応が難しいですから、公庫の利用も検討するようにしましょう。
経営悪化時
赤字が続いたりすると取引金融機関の態度が冷たくなったり、訪問回数が減ったりしたことはありませんか。公庫はそんな時でも融資が受けられる可能性があるかもしれません。
顧問先がメインバンクに設備資金の相談をしたところ、借入過多を理由に断られました。決算書を拝見すると借入金残高が確かに多いし、本業での売上高が大幅に減少していたので、すべての取引銀行が断るのは理解できます。しかし新しい事業がこれから成長してくることが十分に期待できる段階でしたし、そのためにも機械の購入が不可欠だったのです。
そこで可能性は低くても、これまで取引のない公庫に相談してみようと伝えました。公庫の担当者に新たに導入する機械の生産能力、今後の生産量と売上高の見通しについて資料を使って詳細に説明したところ希望額が融資されました。
それを聞いた取引銀行は急に態度を変え、「売上増加に伴う運転資金を当行でお手伝いさせてください」と来るようになったのです。
このように公庫からの資金調達が他の金融機関を刺激する効果があります。金融機関は他行の動きに敏感ですから、公庫が融資を出したとなると、それに応じて自分たちも前向きに動くことはあるのです。
民間金融機関よりもリスクを取る
公庫は中小企業への支援に熱心な対応をするので、民業圧迫との批判を受けることがあります。その影響もあるのでしょう、ややリスクの高い企業にも今後の成長性が認められるのであれば融資を出すことはよくあります。
融資を出す時だけではありません。リスケジュールにおいても、公庫は基本的に民間金融機関に歩調を合わせて協力してくれることが非常に多いです。
ただ、誤解して欲しくないのは、公庫が政府系だから審査が甘いということではありません。これまでの決算内容に問題があったとしても、赤字企業なら早期の黒字化が十分に見込まれるのかを丁寧に審査します。企業の将来性を民間金融機関よりも重視しているのです。
したがって、もしこれまでの決算書はダメだったとしても、自社の事業性をよく見て欲しい、今後の成長を十分に期待できるというのなら、ぜひ公庫に相談してみましょう。
少額でいいから継続取引を
このように公庫は、民間金融機関よりもリスクを引き受けて融資を行うことが多いですから、中小企業にはありがたい存在です。
とはいえ、まったく付き合いがない状態で融資を申し込むよりは、すでに少額でも付き合いがあったほうが審査は有利に進みます。返済を続け残高が減少してきたら、新たに融資を受け少額でも取引を継続するようにしてください。
信頼関係を壊すようなことはしない
これはどの取引先に対してもそうですが、公庫との信頼関係を壊すようなことは絶対にしないでください。
具体的には資金使途を偽る、粉飾決算は絶対にしないことです。もしそんなことが見つかってしまえば、今後の融資は期待できませんから資金繰りに深刻な影響を与えます。
民間金融機関なら1つや2つトラブルになっても、他行と取引すれば影響はないでしょう。しかし、公庫は1つしかありませんから代わりがいません。関係を悪化させるようなことは避けてください。だからこそ公庫との関係は大切にしてください。