経理社員から「先月の経理処理が終わりました」と前月の試算表が提出されたら、経営者のみなさんはどうしていますか。
その試算表を眺めて、「売上が増えた」「黒字でよかった」「なんだまた赤字か」という反応で終わりにしている経営者さんが多いようです。
まったく見ないよりはいいのですが、それだけではせっかくの試算表がもったいないです。
前期と比較する理由
日々の経理処理を会計ソフトで処理していけば、試算表自体は簡単に出すことができます。試算表は月ごとだけでなく、指定する期間で集計することもできますし、前期比も出すことが可能です。ぜひ前期比を見比べてみましょう。
経営の問題点が見つかる
試算表や決算書の内容を確認するというと、何となく難しい財務分析をイメージされるかもしれません。例えば流動比率、自己資本比率、債務償還年数などです。
計算式は小学生レベルの内容であっても、決算書を見るのが苦手な経営者さんもいるでしょう。そんな時は前期比などを確認するだけでもいいと思います。
少なくとも前期比と比べて売上高や利益が増えているのか減っているのかは分かります。減少していれば販売不振等の問題点があるはずです。
大きく増えている(逆に減少している)経費はないでしょうか。例えば、今期4月から8月までの広告宣伝費や交際費が前期と比べて大きく増加しているとします。しかし、売上高は横ばいあるいは減少しているなら、それらの効果はなかったと考えられます。これからの使い方を考えるきっかけになります。
利益率にも注目しましょう。利益率が低下していたらその理由としては、製造工程に問題がある、商品や原材料費、燃料費の上昇を販売価格に転嫁できていない等の問題が考えられます。
前期比などの比較だけでも問題個所が見つかりやすいのです。原因が分かれば対応策も採りやすいでしょう。
経理処理の間違いを見つけやすい
前月や前年同月との比較で、経理処理の誤りが見つけやすくなります。例えば、今期8月のリース料が製造原価には30万円、販管費にはなかったとしましょう。しかし、前月や前期8月には販管費にも10万円があったとすれば、その分を誤って製造原価のリース料として処理していることが分かります。
過去が必ず正しいとは限りませんが、今までとは違う処理をしていることはすぐに分かるでしょう。
最新の試算表が出せるように
試算表は期中の数字を集計した書類ですが、日々会計ソフトを使って経理作業をしていれば簡単に作成できます。次の理由から最新かつ正確な試算表作成は経営にプラスです。
金融機関への説明
金融機関に融資をお願いすると、決算書を提出した直後以外は試算表の提出を求められることが多いでしょう。
金融機関は決算後、つまり今期の業況把握を目的に試算表の提出を求めます。決算書が良かったとしても今期に入って大きく悪化している、あるいはその逆もありますから必要なのです。
それがなれば審査は先に進みませんから、遅れるほど企業側が不利になります。希望日までに融資を受けられないこともあるから最新の試算表が必要です。
それに期中の経営報告にも有効です。特に融資をお願いする予定がなくても、試算表を持って担当者に現状報告、前期比で悪化していれば現在何が課題か、あるとすれば対応策や見通しを説明するのにも使えます。金融機関担当者も融資の提案に活用できるでしょう。
節税や自社の経営改善のため
経理が疎かになっている企業では、どれだけ利益が出ているのか正確に把握できませんから、上手に節税をすることができません。申告が近づいてきて税額が大きいことに気が付き、そこから節税をしようにもほとんど何もできないでしょう。
毎月試算表を出せるような企業であれば、これまでの利益そしてこれからの利益見通しから年税額も分かり、早めの節税対策を採りやすくなります。
試算表は信頼性が低いからこそしっかり作る
試算表は期中の数字をまとめた書類ですから、正直なところ適当に作られていることも少なくありません。計上漏れ、誤った処理、さらには取引銀行から提出を求められたからと、見栄えを良くした数字に調整されていることも。
金融機関は、中小企業の決算書は粉飾されていることが多いが、試算表はさらに信頼性が低いと感じています。それでも期中の数字を知るためには試算表しかないから要求するのです。
だからこそ試算表はしっかりと作成しましょう。多少計上漏れや誤りがあるのは仕方ありませんが、金融機関に出すからと売上の前倒しや、仕入の未計上をするようなことはやめましょう。
毎月は無理でも、3カ月に1回程度は金融機関に提出しましょう。できれば毎月末の棚卸資産(商品、製品、原材料等)の残高を確認し試算表に反映させるとより信頼度が増します。
まとめ
試算表は銀行融資や節税、自社の経営改善にも不可欠な書類です。前期と比較することで経営課題が見えやすくなりますから、早期の経営立て直しが可能です。
経理社員がいる企業ではかなり精度の高い試算表が出せますが、小規模企業では担当者がいない場合、それが難しいことがあります。経理作業をしても売上にはなりませんが、資金繰りや節税、そして経営改善には役立ちますので、日々行うようにしてください。