固定資産(機械、車両、建物等)を取得しても、購入した期に全額を費用計上にすることは原則できません。固定資産は複数年にわたって使用することができますから、使用年数で取得価額を按分していかなければなりません。
これはおそらく経営者の多くはご存じのことで、耐用年数に応じて計上しなければならないとの説明を聞いたことがあるでしょう。
減価償却費の計上について
会計上は計上するのがルール
固定資産が何年使用できるかについては、法定耐用年数で定められています。同じ固定資産でも各企業の使い方や環境によって使用できる年数は異なってきますが、それを統一するために基準が設けられているのです。
例えば、トラックを購入したとします。分かりやすく1,000万円とします。耐用年数は5年です。そうすると、毎年200万円ずつ減価償却費を計上していくことになります(法人の多くが定率法のため実際の計算はちょっと違いますけど)。そうやって購入時1,000万円あったトラックの価値を減少させる会計処理をしていきます。
この減価償却費、会計のルールでは各期での計上が求められています。
税務上は任意
会計のルールでは減価償却費は計上しましょうということですが、税務上は計上しなくても問題ありません。任意です。
中小企業の多くが申告納税のため、そして金融機関からの資金調達を目的としていることから、減価償却費を計上せず利益を出すことで、少しでも金融機関に評価されたいと考える経営者はいます。
未計上によって利益を出そうとしているのですから、税務調査があっても税務署から怒られることはありませんし罰則もありません。
金融機関は減価償却費をよく見ます
このように少しでも金融機関に評価されたいという気持ちや努力は理解できますが、まったく効果はありません。なぜなら、金融機関は減価償却費の計上をしっかり見ているからです。
中小企業は、赤字決算だと金融機関の融資姿勢が厳しくなりそうだとのことから、粉飾決算をしてでも黒字にしようとすることがあります。代表的な方法は売上高や在庫の架空計上ですが、減価償却費の未計上もよく知られた方法です。
架空売上を計上するのはちょっと悪質な気がするし、消費税の負担も発生するので、減価償却費の未計上は粉飾方法としてはやりやすいのです。
ただ、この減価償却費の未計上ですが税務署からは何も言われません。せいぜい「ちゃんと計上しましょう」程度のアドバイス的なことは言われるかもしれません。しかし、金融機関は評価しませんし利益を調整していると見ます。
利益調整のために減価償却費が利用されるのはもちろん知っています。だから決算書を受け取ればしっかりチェックしています。
これまで各期1,000万円程度の減価償却費が計上されているのに今期は100万円だとしたら、減価償却費を過少に計上し利益を出しているのではと疑われます。また、法人税の申告書に別表16という書類があります。それは減価償却資産の償却額の計算に関する明細書なのですが、そこからもチェックすることができます。
無理して利益を出し法人税まで支払っているのに、金融機関からは粉飾決算だとバレてしまうぐらいならやらないほうがいいかと思います。
限度額まで計上を
それならしっかりと減価償却費を計上しましょう。減価償却費は資金の流出を伴いませんから、金融機関は利益と同様に長期借入金の返済財源として考えます。
借入金がキャッシュフローの何倍あるかを示す財務指標にEBITDA有利子負債倍率があります。計算式は次のとおりです。
EBITDA有利子負債倍率=(借入金-現預金)/(営業利益+減価償却費)
これに似た財務指標に債務償還年数があります。
債務償還年数=(有利子負債-正常運転資金)/キャッシュフロー
キャッシュフロー=経常利益×(1-税率)+減価償却費
※どちらも計算式は金融機関によって異なります。
EBITDA有利子負債倍率は、キャッシュを稼ぐ力に対して借入金が何倍あるのかを示す指標です。債務償還年数は、借入金を返済するのに何年かかるかを示します。
どちらにも減価償却費があることが分かります。
したがって、減価償却費を計上することで赤字になってしまったとしても、減価償却費が仮に500万円、赤字が300万円だとしたら、返済財源は200万円あると見なせるのです。多くの金融機関がそのように評価してくれるはずです。
それでも赤字だと言ってくる金融機関もあるでしょう。しかし、少なくとも減価償却費の未計上による粉飾決算よりかは良い評価を得られます。
特に減価償却の計算方法として定率法を選択し、かつ多額の設備投資をしたばかりでは減価償却費が多額になりますから赤字になりやすいです。そんな時は、多額の減価償却費が原因であること、そして今後の償却予定額は徐々に減少していくことを伝えましょう。