社会保険料の未納

資金繰り

社会保険料は、健康保険・介護保険、厚生年金保険、雇用保険・労災保険を指します。社会保険料は役員、従業員の給与から徴収した分を納めるだけならいいのですが、企業負担分が重くのしかかり経営者の大きな悩みの一つになります。

そのため、資金繰りが苦しいと未納にしてしまうこともあるでしょう。

社会保険料の未納があると・・・

社会保険料の未納がある場合の金融機関や信用保証協会の対応は次のとおりです。

金融機関や信用保証協会の考え方

本来支払わなければならない社会保険料の未納が発生したということは、資金繰りが相当苦しいことを意味しています。

これでは融資を実行したとしても、今後の返済ができなくなるリスクが大きいと想定されます。貸し倒れリスクが高いのですから、原則として融資は謝絶されるでしょうし、金融機関の立場としてはやむを得ないことです。それに納めるのが当然の義務であり、それを肩代わりするのは通常の融資とは違い難しいのです。保証業務を行う信用保証協会でも同じです。

未納でも融資が実行されることも

しかし、社会保険料の未納があるからといって、絶対に融資が出ないかというとそうとも言えません。未納があっても融資が実行されることはあります。

それでも審査に応じてくれる条件としては次のようなケースです。

・分割納付の手続きをしている

・分割納付計画に基づき、遅れることなく数カ月納付の実績があり、かつ資金繰り見通しから今後も納付が可能と判断できる

・分割納付が短期間に完了し未納状態が早期に解消される

このような状況にあれば、信用保証協会は審査に応じてくれる可能性が出てきます。信用保証協会は社会保険料や税金の未納があるからといって、保証を絶対に出ないという事はありません。

信用保証協会の保証審査に通れば、金融機関も応じやすくなります。

社会保険料の納付が難しい場合

社会保険料の納付は企業に大きな負担となります。特に人件費比率が高いとそうでしょう。金融機関への返済を止めても、経営者が役員報酬を減額しても、資金繰りに余裕がない中小企業は納付できないことも出てくるでしょう。

分割納付はできる

赤字なら法人税は発生しませんし、消費税は発生するにしても少額で済むかもしれません。しかし、社会保険料ではそうはいきません。

先ほども少し触れましたが、社会保険料の分割納付は可能です。

日本年金機構のホームページには、申請要件や猶予期間について次のように書かれています。

申請要件

(1)厚生年金保険料等を一時的に納付することにより、事業の継続等を困難にするおそれがあると認められること

(2)厚生年金保険料等の納付について誠実な意思を有すると認められること

(3)納付すべき厚生年金保険料等の納期限から6カ月以内に申請されていること

(4)換価の猶予を受けようとする厚生年金保険料等より以前の滞納又は延滞金がないこと

(5)原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること

猶予期間

猶予期間は、1年の範囲内(※)で、申請者の財産や収支の状況に応じて、最も早く厚生年金保険料等を完納することができると年金事務所が求められる期間に限られます。

※猶予期間内に完納することができないやむを得ない理由があると認められる場合は、年金事務所に申請することにより、当初の猶予期間と合わせて最長2年以内の範囲で猶予期間の延長が認められることがあります。

その他詳しくは日本年金機構ホームページ内にある「厚生年金保険料等の猶予制度の概要」をご覧ください。

私の経験からすると、税金よりは長い期間を認めてもらいやすいですし、資金繰り悪化で悩む経営者には非常にありがたい制度かと思います。

社保倒産の可能性

このように社会保険料を分割で納付することは可能です。しかし、その後の納付が資金繰りを一気に悪化させることが懸念されます。

納付を猶予してくれることは容易であっても、後に早期解消を求められることが多いのです。

毎月発生する社会保険料に加え滞納分が上乗せされますから、悪化した経営が徐々に回復してきたとしても直ちに納付することが困難なこともあるでしょう。

そこで企業が経営再建計画書を作成し、今後の納付金額について相談したくても、年金事務所は「これ以上の猶予はできない、金融機関から融資を受けてでも支払え」と厳しい取り立てをしてくることだってあるのです。実際、これを言われた顧問先があります。

対応は企業によって多少異なりますが、コロナ禍が落ち着いたことで徴収を活性化させてきました。中小企業は過去の影響が残ったままであっても、年金事務所は平時の対応に戻ったということでしょう。

こちらの図表は社会保険料滞納による差し押さえを受けた事業所数の推移です

20年度と21年度は大幅に差押数は減少しましたが、22年度にはコロナ前まで回復、23年度は上期だけでこの結果です。社会保険料の未納がある企業は、年金事務所とは頻繁に交渉することが必要ですし、それ以前に抜本的な経営改善が必要です。

社会保険料や税金は長期間待ってはくれませんが、返済について金融機関は柔軟に対応してくれます。だから顧問先には返済よりも優先してくださいと伝えています。

社会保険料の未納についてまとめ

社会保険料の未納が発生すると、金融機関からの資金調達は通常より難しくなります。分割納付が認められ順調に納付していることが確認できれば、プロパー融資は難しくとも信用保証協会を利用しての融資は可能性があります。

資金繰り悪化により未納になりそうだと予想されるのなら、資金調達をしておく、それが無理なら金融機関の返済よりも社会保険料を優先しましょう。未納状態を長期間待ってくれることはありませんから、限られた資金をどう使うか優先順位をよく考えてください。

そのためにも、今後半年以上の資金繰りを管理するようにしましょう。