ゾンビ企業からの卒業

銀行融資

最近は「ゾンビ企業」という言葉をよく耳にする機会が多いと思います。私はあまり好きな言葉ではありませんが、広く知られるようになりましたし海外でも使われています。

ゾンビ企業とは

国際決済銀行(BIS)では、ゾンビ企業を次のように定義しています。

・10年以上存続

・3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオが1未満

インタレスト・カバレッジ・レシオとは

インタレスト・カバレッジ・レシオとは、事業利益(営業利益、受取利息・配当金)が金融費用(支払利息、手形割引料)の何倍あるのかを示す指標です。借入金の支払利息や手形割引料が営業利益や受取利息・配当金でどの程度カバーされているのかを確認するものになります。

計算式

インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息・配当金)÷支払利息(倍)

計算例

A社とB社の2つを例に計算してみます。

A社は営業利益1,000万円、受取利息・配当金100万円、支払利息が500万円

B社は営業利益1,000万円、受取利息・配当金100万円、支払利息が1,500万円

A社:(1,000万円+100万円)÷500万円=2.2倍

B社:(1,000万円+100万円)÷1,500万円=0.7倍

A社は2.2倍、つまり営業利益と受取利息・配当金で支払利息をカバーできています。B社は0.7倍ですから、それができていないということになります。

損益計算書にある営業利益や支払利息等からこの計算式を使って1以上あるということは、本業で獲得した営業利益で支払利息を支払っていけるということです。しかし、1未満ということは、営業利益で支払利息を支払えていないわけです。それが3年以上も続けば正常な経営ではないというのも理解はできます。

みなさんの会社は該当しますか?

みなさんも決算書の損益計算書を見て計算してみましょう。1未満になっていませんか。

営業利益の下にある営業外収益には受取利息、営業外費用には支払利息しかないとしたら、経常利益がプラスであれば1以上ですし、マイナスなら1未満ということです。他に例えば雑収入があったとしても、それは本業以外での収入が含まれているので除外します。

計算時の注意点としては、もし決算書を粉飾していれば、正しい計算結果は出ませんから、する前の数字で計算することです。

表面上は1以上だったとしても、実態は1未満かもしれません。

自社は大丈夫と思っていても、粉飾した数字を排除したところ、3年以上1未満であるなら、早めにゾンビ企業から脱却しなければなりません。

金融機関の融資姿勢

インタレスト・カバレッジ・レシオが1未満であれば金融機関の融資姿勢にも影響が出てきます。

融資は受けづらい

金融機関としては融資した資金で利益を獲得し、それで利息や返済をしてもらいたいわけです。

しかし、1未満というのは借入金の利息を本業の利益で支払えていない企業ですから、融資には消極的となります。それが3年以上続くようでは、どうしても慎重になります。その原因としては、これまでの業績が悪かった、借入金残高が多いから利息支払いが増加した、調達した資金を使って収益を上げることができなかった等、何らかの経営課題を抱えているともいえます。

収益力を重視

最近であればコロナウイルス、それ以前なら東日本大震災やリーマンショックと、企業を襲う出来事がいくつも発生しました。

特に中小企業はそのような自然災害や経済危機において、大企業よりも深刻な影響を受けます。国は100%保証の制度や政府系金融機関による特別貸出により資金繰りを支えました。

その結果、倒産増加は回避できましたが、3期以上の赤字で数字上はゾンビ企業になってしまった中小企業は多いと思います。

いつもそうですが、非常時には中小企業の資金繰り支援が最優先され、金融機関や信用保証協会の審査は極めて緩くなります。

しかし、徐々に落ち着きを取り戻してくると、緊急時ではなくなり通常の審査に戻ります。むしろ厳しくなる傾向にあります。業績回復が遅れている企業には、これまでどのような努力をしたのか、これから利益を出すために何をするのかを問うようになります。そこで再生可能性がある説明ができれば支援継続もあるでしょうが、そうでなければ融資は厳しいものになります。

ゾンビ企業から抜け出す

今後の金融機関との関係を考えても、自社がゾンビ企業に該当するのであれば、いち早くそこから抜け出さなければなりません。

インタレスト・カバレッジ・レシオが1未満なら、収益力の改善が必要ですから、売上先や仕入先との価格交渉、新商品やサービスの開発、顧客や事業の選択、経費見直し等、いろいろやるべきことはあるはずです。

それら各施策とその効果を計画書にまとめ金融機関に提出しましょう。そして、実行したら効果を検証し、新たな改善策を実行する、それを続けていきましょう。改善策が間違っていなければ、時間はかかっても徐々にゾンビ企業からの卒業は可能です。当社でも経営改善計画書金融機関との取引サポートを行っています。

どうしても、「不景気だから」「価格交渉なんてしたら仕事がもらえなくなる」等と言い訳をして何も改善策を実行しない経営者がいます。しかし、現状のままで何もしなければ倒産するだけです。ぜひ手遅れにならないうちに行動しましょう。