粉飾決算

経理業務

粉飾決算によって融資を受けようとする企業が後を絶ちません。粉飾決算は金融機関を騙す犯罪行為ですから手を出してはいけないし、悪化した経営への対策を遅らせるだけでマイナス面しかありません。粉飾決算して得た資金を使って抜本的な経営改善をする経営者はほとんどいないと思います。

粉飾決算に手を出す理由

粉飾決算に手を出す理由としては、金融機関の自社に対する姿勢に変化がなく、今まで通り資金調達ができるようにしたいからです。

融資審査で重視する材料として、多くの経営者は「決算書」と答えるでしょう。

長年、融資先を評価するのは決算書が中心で、金融機関によって異なりますが、少なくとも70~80%からそれ以上のウエイトを占めていました。つまり、決算書がダメなら1年間は銀行のスタンスは消極的となりかねなかったのです。

今はかなり変わってきましたし、1回赤字を出したからといって直ちに冷たくなるわけではありませんが。とはいえやはり黒字の方がいいですし、2期以上連続して赤字が続けば、融資を受けることが難しくなってきます。

赤字によってプロパー融資は無理だったとしても、信用保証協会を利用すれば融資は可能なケースが多いのですが、それでもやはり保証審査への影響は懸念されるでしょう。したがって、念のため決算書の数字は良くしておきたいと思うのです。

数年前から金融庁は「財務データに過度に依存しないように」と、銀行に対して決算書中心の審査を改めるように求めています。取引先企業の決算書に赤字等の問題があったとしても、事業内容や成長可能性を適切に評価して銀行が融資可能と判断したのなら、金融庁もその判断を尊重するというルールに変更したのです。

それに応じて企業を決算書以外の面からも評価して支援を行うケースは増えてきましたし、そのような支援を積極的に銀行はあります。しかし、「過度に依存しない」というだけで決算書は重要な判断材料であることに変わりはありません。それに、依然として財務データに過度に依存している銀行も見受けられます。

そのため、企業側からしてみれば、「結局は決算書ではないか」となってしまい、粉飾決算に手を染めてしまうのです。

経営者のほとんどは、自分自身や従業員そしてその家族を守りたい、そして取引先に迷惑をかけたくないとの理由からです。悪いことだと分かっていても何とか事業を継続しているのです。自身の贅沢な生活を維持することが目的の場合もありますが、それは私の経験上はごく一部かと思います。

貸借対照表

粉飾決算の犯人は?

粉飾決算の中心人物はもちろん経営者です。決算書作成中に赤字見通しの報告を受けると、売上高や在庫調整等の具体的方法と金額を経理社員に指示します。数字にあまり強くない場合は、経理責任者が経営者が望むように粉飾を行っていることもあります。

他にも次のような人や組織が関与していることがあります。

税理士やコンサルタント等の専門家

多くの税理士やコンサルタント等の専門家は粉飾決算を勧めません。発覚した場合は自分たちにリスクがあることもありますが、企業のためにならないと分かっているからです。

しかし、一部には手を貸してしまう専門家がいます。経営者からの依頼にやむなく応じてしまうのです。昔と違って顧問先を獲得することが難しいため、顧問先企業の言いなりにならざるを得ない事情があるからです。

本来でしたら
社長「先生、売上を乗っけてちょっと黒字で決算をお願いできませんか?」
税理士「それは粉飾ですからできません」
社長「そうですね。では正しい決算でお願いします」

となるのでしょうが、今は
社長「先生、売上を乗っけてちょっと黒字で決算をお願いできませんか?」
税理士「それは粉飾ですからできません」
社長「(こっちがお金を払っている立場なのに)だったら他の税理士と契約をします」
税理士「(顧問先が減少すると経営がまずい)わかりました。ご依頼に従います」

となってしまう可能性があります。

多くの顧問先を抱えている税理士ならそんな依頼を突っぱねることができますが、そうでないと断るのが難しいのではと思います。

積極的に協力している専門家もいます。なぜなら、経営悪化が著しい企業では顧問料の支払いに不安がありますので、粉飾決算に協力して資金調達が成功すればそれが解消できるからです。

高額な手数料を目的とした組織

高額な手数料を目当てに中小企業に近づく組織があります。資金繰りに悩む経営者に「資金繰りでお困りなら資金調達を支援したい」と近づいて、粉飾決算による資金調達の話を持ちかけます(政治家等を紹介する場合もあります)。そして依頼を受ければ上手に粉飾された決算書を作成します。しかし、成功報酬は非常に高く、実行金額の少なくとも10%以上を取ることが多いようです。

当社が設立される少し前のことになりますが、決算書だけで融資条件を決めるビジネスローンという融資商品が流行りました。その頃、怪しげな組織が成功報酬目当てで暗躍し、銀行もかなりの被害を受けました。反社会的勢力が関与した組織もありました。

その頃に比べると今はそのような組織が大規模に活動していませんが、小規模ながらも経営者を食い物にする組織が存在することを私は確認しています。彼らは手数料だけが目当てで、企業がどうなろうと関心がありません。経営者の皆さんはそんな話があっても絶対に近づかないことです。

金融機関行職員

意外かもしれませんが、銀行員が関与していることもあります。

銀行員が粉飾決算を経営者に指示するなんてあってはならないことです。しかし、今は残業もしづらい中で効率的にノルマをこなしていきたい銀行員としては、財務内容の良好な企業は審査は楽ですし、上司の承認を取りやすいわけです。取引先企業から事前に決算の予想があまり良くないと聞けば、経営者に粉飾を指示していることがあるのです。私はそういうのに何件か出会いました。

もちろん銀行員のほとんどは真面目です。ただ、ごく一部にノルマや自分の出世を優先させようとする人がいるのも事実です。

粉飾をやめることが難しい

経営者が一度粉飾に手を出すとやめることが難しいかもしれません。それは一度粉飾決算をしたら元に戻すことが難しいですし、それに特に中小企業では注意してくれる人がいないからです。

金融機関は指摘しづらい

粉飾決算には見つけやすいものもあれば難しいものもあります。

初歩的な粉飾でしたら銀行員は見抜くことができると思います。粉飾決算を見抜くための研修やノウハウがありますし、今は決算書の数字を財務分析システムに入れますが、性能も向上しており粉飾が疑われる決算書には、チェックすべき箇所を指摘してくれるようになっています。

そのようなものがなかったとしても、粉飾決算をすると決算書に何らかの歪みが出てきます。例えば、売上高を架空計上すれば売上高総利益率等の利益率が上昇しますし、それに伴って売掛金が増加すれば売上債権回転期間が長期化します。

銀行員は「決算書を数期分並べて見て変化がないか」、「同業他社と比較してみて突出したところがないか」を見るようにするのです。

そして、変化している部分があったり、比較しておかしい部分があったりすると経営者に確認するのです。

初歩的な粉飾ばかりではありません。見抜くことが難しいものもあります。

経営者も金融機関に見つけられないように考えて粉飾をしますし、元銀行員、あるいは元銀行員から融資審査のノウハウを教えてもらったような人が関わっていると、銀行員にバレにくい手の込んだ決算書を作成します。

したがって、金融機関は怪しいと感じた程度では、返済に滞りがない間は指摘してくることはあまりありません。もし粉飾を疑って違っていたら問題になってしまうからです。

なお、税務署が企業に税務調査で来ることがあります。税務調査では元帳や請求書、領収書をしっかりチェックしますから、粉飾決算をしていることが見つかる可能性はあります。ただ、税務署は売上を隠したり架空の経費を計上したりする等、利益を少なくして脱税をしている企業を見つけるのが目的です。したがって、わざわざ利益を計上して納税している企業は、ある意味お客様といえます。

職員の中には「正しい決算をしましょう」と指摘してくる方もいますが、粉飾を責めたりすることはありません。

誰にも責められない

大企業と違い中小企業は、経営者が株式の大部分を保有している事が多いでしょう。そうでなくとも、家族分を含めればかなりの割合を保有しているはずです。したがって、粉飾について内部の人から責められることはないでしょう。

粉飾決算によって被害を受けるとすれば金融機関ですが、先ほども述べたように疑いがあるという程度では厳しい態度も取れないですし、しっかり返済されているのであれば、特に指摘しないことが多いです。しかし、粉飾決算がバレてしまった場合、金融機関は騙されたわけですから、お互いの関係が悪化し、企業の支援に支障をきたすことになります。

企業を訴えることは稀です。よほど悪質な粉飾決算であれば別ですが。通常、新規融資は不可能となり、返済をさせるだけとなります。良くてリスケジュールでの対応というところでしょう。

ただ、企業側が正直に粉飾を打ち明けた場合、「よく正直に言ってくれた。これからは正しい決算をしていきましょう」と、隠し続けた場合よりも前向きに経営改善を支援してくれることも増えてきました。

本当の数字を見ることができない

粉飾によって決算書は偽った数字になっていますから、実態は分かりづらくなっています。経営者は本当の姿でないと分かっているものの、粉飾を繰り返すことで悪いことをしている感覚がマヒしてきます。その数字が本当の姿と見えてくるのです。そして、実態を見ることが怖くて逃げてしまい、結果として再生する事さえ困難になっていくのです。

粉飾決算は麻薬と一緒で抜け出すことが難しくなります。粉飾決算は他人に迷惑をかけるだけでなく、再生が遅れるだけで自社にも良いことがないのです。

金融機関とは何でも話せる関係を

長年、金融機関が決算書で企業を評価してきた姿勢に対して、金融庁は「財務データに過度に依存しないように」と言っていますが、まだ過度に依存していることはあります。

しかし、そのような行動は顧客から今後支持されなくなりますから、金融機関の間での生き残り競争を勝ち残る事が難しいと思われます。

そうなれば、今まで以上に金融機関は決算書に加え、企業の事業内容や将来性評価を大切にしてくるでしょう。

企業は粉飾決算なんかしている時間があれば、自社の業績悪化の原因を突き止め、どう乗り越えていくのか改善策を策定し、計画内容を金融機関に説明し支援を得られるようにします。そして、その計画内容通りに改善策を実行していき、進捗状況を定期的に説明していく、そんな経営を自ら実践していかなければならないのです。

そして、金融機関はそんな企業の行動を適切に評価する能力が求められます。

今までのように「企業VS金融機関」であるような関係があるから粉飾決算をしてしまうのです。お互いがその考えをまず変えていく事が必要です。

粉飾決算がなくなるためには、金融機関が企業の目線まで下りて相談に乗ってくれる姿勢も必要ですが、経営者の皆さんが金融機関ともっと接触する頻度を増やして、何でも話し合える関係を作っていきましょう。

そのためにも、自社の経営支援に熱心な金融機関と付き合ってください。