金融機関の選び方

銀行融資

融資取引をするならどの金融機関が自社にとってメリットがあるのか、経営者として経験が浅いと悩む方がいるようです。そこでここでは中小企業の取引金融機関の選び方を解説します。

取引金融機関の選び方

金融機関には都市銀行(メガバンク)、地方銀行、信用金庫、信用組合、政府系金融機関、ネット銀行などがあります。どこの金融機関と付き合うのか、次のような基準で考えるといいでしょう。

年商での考え方

自社の年商を基準に考えてみましょう。自社と相手金融機関の規模が近いほうが同じ目線で付き合えるからです。なお、年商は大きな目安と考えてください。

創業期や年商が1億円以下

創業期や社員が数名で年商が1億円に満たない規模であれば、信用金庫や信用組合を中心の取引で十分です。経営者一人とか年商が5千万円にも満たないのであれば、なおさらそうしたほうがいいでしょう。

三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、いわゆるメガバンクは非常に有名ですし、テレビCMでもよく見かけます。金融機関なんてどこも同じだろうと、この中から選ぼうとする経営者がいます。しかし、融資取引に関していえば正しいとはいえません。

なぜなら、大規模銀行は小規模企業をまともに相手しませんし、担当者が付くこともないからです。メガバンクが本来取引したいのは大企業から中堅企業ですし、信用金庫や信用組合は中小企業を対象としています。

地方銀行も中小企業を主な顧客としている点では信用金庫や信用組合と一緒です。しかし、地方銀行でも規模の大きな銀行は、小規模企業への支援に熱心とはいえないことがあります。地方銀行の中に第二地方銀行があります。経営規模がやや小さいため、信用金庫のような丁寧な対応が期待できるかと思います。

信用金庫や信用組合を中心に、他に地方銀行や日本政策金融公庫も含めて、2~3行と取引していれば十分です。

なお、融資取引に関してメガバンクは勧めないだけで、売上代金を振り込んでもらうための預金取引を否定するものではありません。

年商5億円程度

年商が5億円程度になってきた頃には、取引数を増やす必要がありますし、1回あたりの融資額も大きくなりますから、地方銀行を中心にした取引となります。

これぐらいの規模になってくると、メガバンクから接近してくることがあるかもしれません。しかし、それでも地元の地方銀行を中心にした取引にしましょう。というのは、これぐらいの規模ではまだメガバンクにとって重要な顧客とはいえないからです。業績好調の時は好条件を提示してきて、悪化すると一気に対応が冷たくなることもあります。

年商10億円超

年商が10億円を超える規模になってきたら、メガバンクとの付き合いも考える必要があります。

そして、信用保証協会を利用している企業は、この規模になってくると信用保証枠だけでは足りませんから、プロパー融資で資金調達できる経営にしておく必要があります。

地方銀行を中心にしてメガバンクとの取引もしていきましょう。

政府系金融機関とは取引を

政府系金融機関で最もなじみがあるのは日本政策金融公庫でしょう。創業融資ではよく知られていますし、自然災害や経済危機発生時において、民間金融機関以上にリスクを取って支援するのは政府系金融機関です。

また、企業の財務内容に過度に依存することなく、将来性について審査に反映させていることが多いのも特徴です。

したがって、売上規模に関係なく、政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工組合中央金庫)とはぜひ少額でもいいから取引しておくことをお勧めします。

ネット銀行

起業されたばかりの企業においては、取引金融機関がネット銀行のみということがあります。

振込手数料が安い、利用のしやすさ、経理作業においてもメリットは大きいと思います。それに銀行口座の取引データを活用した融資商品がありますから、ネット銀行でも資金調達ができないわけではありません。通常の融資とは違い審査は迅速に行われますし、いろいろな書類提出もありません。

ただ、金利や融資額ではまだ満足いくものではありませんし、実店舗はなく担当者と接触することができませんから、より大きな金融支援を受けるには限度があります。

したがって、金融機関からの資金調達が不要ならかまいませんが、多額の資金を外部から調達する必要があるのなら、ネット銀行だけとの取引は避けましょう。

取引姿勢

地方銀行や信用金庫は、中小企業への融資に積極的というイメージがあるかもしれませんが、それは金融機関によって異なります。ある県には2つの地方銀行があります。県内経営者からは、A銀行は中小企業いじめのようなことを平気でやりますが、B銀行は中小企業を熱心に支援してくれると聞きます。またある県の信用金庫は中小企業への融資はほとんどせず、有価証券での運用をメインにしています。

そういう評判を頻繁に耳にするようなら避けたほうがいいかもしれません。お近くの金融機関についてそのような評判を聞くことはないでしょうか。コンサルタントや士業、知り合いの経営者の意見もかなり参考になると思います。

取引数のバランス

たくさんの金融機関と取引したほうが多くの融資を受けられる可能性が拡大し、資金調達においてメリットがあるように思えるかもしれません。確かに企業規模拡大に応じて増やす必要はあります。しかし、それを超える数の金融機関との付き合いは、むしろデメリットが目立つようになります。

取引が分散されてしまうため金融機関にはメリットが薄くなります。また動きがほとんどない預金口座がたくさんあると、融資審査の結果や条件に不満があると、すぐに別の金融機関に移ってしまう、長く落ち着いて付き合うことができない企業とのイメージを持たれかねません。

逆に1行取引をしている企業もあります。それは絶対に避けましょう。選択肢が一つしかないのはリスクが高いからです。融資を断られたら他行での資金調達が難しいですし、金利などの条件も比較することができませんし、言いなりになる可能性が高いでしょう。それにあまりにも能力の低い担当者に当たってしまうこともあります。それらの理由からもぜひ複数の金融機関とお付き合いしてください。

新しい金融機関開拓

取引したい金融機関に訪問することが考えられますし、金融機関が営業に来ることもあるでしょう。また、知り合いの経営者などに紹介してもらう方法もあります。

企業から訪問する

まず考えられるのは企業側から取引したい金融機関に訪問することでしょう。

企業から金融機関に訪問する方法は絶対避けるべきとアドバイスする専門家がいます。それは取引金融機関からまったく相手にされず、仕方なく訪問してきたとマイナスに受け止められるからというのが理由です。

絶対そうなるとは言えませんが、確かにその可能性はあります。実際にそういう理由の企業は多いですから。

こちらから金融機関に訪問する場合は、時間的ゆとりを持つことです。私も企業から金融機関に訪問するなら、いきなり融資の話をするのは避けて欲しいとアドバイスしています。

預金口座開設時に融資課や自社の営業エリアを担当する行員を紹介してもらいましょう。そして次のような内容を伝えます。

「しばらくは預金取引をさせていただきながら、いずれは融資でもお付き合いをと考えています。そのために試算表を毎月提出(郵送)します。他に必要な書類があればおっしゃってください。半年先あたりに融資が必要になりそうなので、近くなったら改めて相談させてください」

このように次の融資まで急いでおらず資金繰りに余裕がある、そして必要な書類は提出する、決算書や試算表の内容にもよりますが、このような姿勢でいると金融機関から融資の営業を受けやすくなります。

紹介してもらう

経営者仲間に紹介してもらうのが一番いいでしょう。とはいえ誰でもいいわけではありません。取引したい金融機関の優良先が理想的です。

紹介を受けた金融機関は丁寧に対応せざるを得ませんし、優良先からの紹介であれば安心して取引することができるだろうと考えます。

いきなり訪問して融資をお願いするのでは慎重な対応を取られてしまうこともありますが、紹介であれば「〇〇社長からの紹介だからできる限りのことはしよう」という発想になります。

経営者仲間から、「いろんな金融機関が頻繁に訪問してくる」「借りてくれと言われる」、このような発言があったら、金融機関から見て優良先の可能性がありますから、紹介してくれないか相談してみましょう。

金融機関から訪問

金融機関から訪問してくることもあります。信用調査会社の情報を参考に営業してきたのであれば、前向きな姿勢であることが考えられます。

金融機関がお願いする立場になりやすいですから、すでにいくつもの金融機関と付き合いがあっても会うようにしましょう。今付き合っている金融機関よりも、いい条件で融資が受けられるか、長期にわたっていいお付き合いができるか、一度話を聞いてみるだけでもいいと思います。

経営者が不在あるいは多忙な時は、後で連絡をして会うようにしてください。金融機関の行員が訪問してきたときは、門前払いせず対応するよう従業員には伝えましょう。

金融機関の選び方についてまとめ

融資取引で重要なのは、自社の規模に近い金融機関を選ぶことです。同じ目線で対話ができる複数の金融機関と付き合っていきましょう。

そして理想的には金融機関からの訪問、あるいは紹介を利用して開拓するのがいいですが、どうしても自社から接触する場合は、資金繰りにゆとりを持って取引していきましょう。