運転資金の基本「正常運転資金」をマスター、賞与・季節・赤字補填まで網羅解説

銀行融資

経営者や経理担当者のみなさん、そして金融機関も普段、「運転資金」という言葉をよく使います。手持資金が無くなりそうになると「運転資金を調達しないと」と言うでしょうし、金融機関にも「運転資金を貸してください」と相談するでしょう。

運転資金の種類:正常運転資金から赤字補填資金まで

一口に「運転資金」と言っても、銀行はその「使い道(資金使途)」を厳格に区別します。代表的なものは以下の通りです。

正常運転資金(経常運転資金)

売掛金や棚卸資産(在庫)を保有し、買掛金を支払うまでの「商売のサイクル」で常に必要となる資金です。事業を継続する上で恒常的に発生するため、もっとも基本的な資金使途といえます。

賞与資金

従業員へのボーナス支払いに充てるための資金です。支払時期が通常は夏と冬に限定されるため、半年程度の短期間で返済する条件で融資が組まれます。

季節資金

季節によって売上が大きく変動する業種(例:アパレル、冷暖房器具製造など)で、繁忙期前の仕入れ資金として必要になるものです。

つなぎ資金

一時的な資金不足を補うためのものです。例えば、「補助金の入金が決まっているが、実際の入金までに時間がかかる」「工事代金の入金前に材料費の支払いがある」といった場合に、入金までの期間をつなぐための資金需要です。

決算資金

法人税などに充てるための資金です。納税額が少額なら年1回納付ですが、納税資金を調達するぐらいなら、中間納税も発生し年2回と考えられます。一般的には半年程度の短期的な融資となります。

赤字補填資金

経常的な赤字によって流出したキャッシュを補うための資金です。他の資金使途とは異なり「後ろ向きな資金」と捉えられるため、審査は非常に厳しくなります。

なぜなら、減少した資金を補填して資金繰りが回ったとしても、早期に返済可能なまでに業績が回復しなければならないからです。

それぞれどういう資金使途なのかは何となく想像できると思いますが、最もよく分からないのが正常運転資金ではないでしょうか。

正常運転資金とは

正常運転資金とは経常運転資金ともいい、企業の正常な営業活動を行っていくうえで、恒常的に必要と認められる運転資金をいいます。

図で確認しましょう

先ほどの説明だけではよく分からないかもしれません。そこで次の図をご覧ください。これは商品を仕入れてから売上代金を回収するまでの流れです。

商品を仕入れ、販売されるまで(つまり売掛金になるまで)が30日、そして売掛金が現金回収されるまで60日としましょう。その場合、商品を仕入れてから90日はお金が入ってこないことになります。

しかし、商品を仕入れたと同時に買掛金が発生したとします。買掛金は45日後に支払う条件であるとしたら、それまでは支払わなくてもいいことになります。それだけ自社の資金繰りは楽になります。

よって、買掛金(仕入代金)は45日後に支払い、棚卸資産と売掛金が現金になるのは90日後なので、その差45日の時間的なずれが発生します。そのタイムラグを埋めるのが正常運転資金なのです。なお、取引相手が企業の場合、取引をしても「後でお金を受け取る」「後で支払う」ことは一般的なことです。

正常運転資金は、貸借対照表上では次の図のように計上されています。

売上債権・棚卸資産の分だけ資金繰りを悪化させる

売上債権とは受取手形や売掛金です。これは商売上のツケですね。まだ売上代金を回収していないのに商品を取引先に渡すのですから、お金を貸付けているのと同じです。だからその分だけ自社は資金繰りが苦しくなります。

棚卸資産とは商品、製品、原材料、仕掛品のことです。在庫ともよくいいます。いつでも販売できるよう一定量を保有しています。しかし、これはお金を出して商品等を購入しているのですから、その分だけ現預金は減少します。売上債権と同様に棚卸資産が多いほど資金繰りを悪化させます。

仕入債務は資金繰りを楽にさせる

仕入債務とは支払手形や買掛金のことです。それら勘定科目が計上されているということは、商品等を仕入れたけどまだ支払いが済んでいないことを意味します。仕入先にお金を支払っていませんから、資金繰りの立場から見れば楽になります。売上債権の逆で、仕入先から借入れをしているのと同じ意味になります。

金融機関は前向きに取り組みたい資金需要

一部業種を除き、事業を行う上でこの売上債権、棚卸資産、仕入債務は恒常的に発生します。個人客相手に店舗で現金商売をしているなら売上債権は発生しないでしょうが、仕入・販売先がともに法人なら、図表のように差額分だけ資金繰りが常に苦しいことになります。

計算式で表すと、「正常運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務」になります。

この正常運転資金について、金融機関は積極的に支援したいと考えます。なぜなら、事業を継続している間は恒常的に発生する前向きな資金需要ですし、売上債権は販売先の信用力、棚卸資産は換金性に問題がないとすれば、いずれは現金となり仕入債務を支払った差額は残ることになります。返済面で問題がないのです。

正常運転資金の借り方

ところで、みなさんの会社では融資を受ける時、どのような条件になっていますか。保証協会付きの証書貸付で返済期間は長期(5年以上)、そして毎月の元金返済が発生する内容になっていませんか。中小企業ではそういうケースが多いと思います。

短期継続融資

かつて金融機関はこの正常運転資金に対して、手形貸付等の短期継続融資で対応していました。利息支払いは発生するものの、毎月の元金返済がない条件です。

例えば、融資実行時に利息を徴収し、元金は半年後に期日一括返済する条件です。そして半年後に再度、融資先の業況を確認し、大きな変化がなければ同条件で継続するのです。

もし売上が増加傾向にあるのなら正常運転資金額は増加しますから、融資額を増額で見直し、逆に減少傾向にあるのなら正常運転資金も減少するので、融資額は減額の方向で検討します。

恒常的にこの資金需要が発生しますから、回収した売上代金は通常であれば次の仕入れ資金や諸経費支払に充てることになるでしょう。したがって、毎月返済が発生するよりも期日一括返済の方が資金繰り的には適しています。

金融庁も認める短期継続融資

しかし、長くても1年後に期日一括返済という条件に、不安を持たれる方もいるかもしれません。特にベテラン経営者の中には、自社の経営に落ち度がなかったが、過去に手形貸付や当座貸越を継続してもらえなかった経験があるかもしれません。

確かに過去そういうことがあったのは事実です。ただ、私が銀行員時代から今まで関与した企業が短期継続融資を継続できない場合は、期日に一括返済をさせるようなことはなく、すべて証書貸付で借換え、長期返済にしてもらっていました。

金融庁もこの正常運転資金に対して、約定弁済が発生しない短期継続融資で対応することについては、何ら問題がないと明確にしています。

実際は長期の約定弁済付き融資が中心

しかし、金融機関は返済期間が長期で、毎月返済を求める条件とすることが多いです。ある一定額の資金需要が恒常的に発生しているにもかかわらず、返済を求められるのですから、その分だけ資金繰りは悪化します。

したがって、ある程度返済が進んだ段階で、返済額分の資金が回復するよう増額借換えで対応してもらえるようにします。

取引金融機関はどのような対応ですか

正常運転資金に短期継続融資で積極的に取り扱っている金融機関はありますが、そうでもない、むしろ消極的な金融機関もあります。

短期継続融資の提案があったら話を聞いてみましょう

もし、取引金融機関が短期継続融資を提案してきたらぜひ一度話を聞いてはいかがでしょうか。それだけ自社の資金繰り支援に熱心ということです。提案してくる金融機関は、中小企業の資金繰り支援に熱心なように私は感じます。

資金繰り改善効果が大きいならば、提案を受け入れてもいいでしょうし、あまりメリットがなければもちろん断ってかまいません。

短期間に期日を迎えますから、その度に金融機関と交渉するのが面倒に感じるかもしれません。不安に感じる方もいるでしょう。

しかし、金融機関に自社の業況や今後の見通しなどを詳しく説明できる良い機会でもあります。短期継続融資はそういったメリットもあるのです。

返済により減少した資金を増額借換えで調達

短期継続融資に否定的な考えをお持ちの経営者もいるでしょう。それも間違ってはいないと思います。ただその時は毎月の元金返済が発生しますから、先ほどの説明したとおり、減少した現預金を回復するよう、定期的に増額での借換えをしてもらえるように交渉してください。

資金繰り表の重要性

正常運転資金などの「前向きな資金」であっても資金繰り表は用意しましょう。なぜなら、決算書(損益計算書や貸借対照表)だけでは、「毎月の現金の動き」が見えないからです。

「毎月これだけの入金があり、これだけの支払いがある。だからこの時期にこの金額が必要で、このタイミングで返済できる」という論理的な説明を資金繰り表を使って行うことで、金融機関側の信頼度は格段に高まります。

融資は「必要だから借りる」だけでなく、「返済できる計画があるから借りる」という姿勢を書類で示すことが、スムーズな実行への近道となります。

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