役員貸付金

資金繰り

貸付金は金融機関が嫌がる代表的な勘定科目の1つです。

貸付先として取引先や知り合い、あるいは従業員もあるでしょうが、経営者個人に流れていることが多いのではないでしょうか。

役員貸付金の発生理由

経営者への貸付金が発生する理由としては次が考えられます。

経理業務が杜撰

現金管理がしっかりできていないと、実際には存在しない現金が帳簿上は残っていることがあり、その差額を実態に合わせるため仕方なく経営者への貸付金として処理することがあります。

口座から出金し経営者が自分の財布に入れます。するといつの間にか自社のこと以外にも使ってしまい、出金した額と領収書の合計額が一致しません。ほとんどは領収書の合計額が少なく差額が発生します。その差額は経営者が使ったであろうことから役員への貸付金として処理します。

経営者が私的に使用

特に小規模企業では代表取締役が株式のすべてまたは大半を保有していることから、社内の現預金を私的なことに使っても責められない環境にあります。株が好きな人は投資、高級車の購入、自宅購入する際の自己資金等、事業とは無関係なことに資金が流れていきます。

粉飾決算の結果

決算書を作成していたところ、赤字決算になりそうだと経費の仕訳を削除した結果、貸付金処理していることがあります。貸付先がないので経営者へとして処理します。

役員貸付金の問題点

役員貸付金の問題点は資金繰りと今後の資金調達に影響するということです。

資金繰りの悪化

問題点として1つ目は資金が事業に使われていないということです。

貸借対照表の左側にある資産の部には、上から現金・預金、売上債権(受取手形や売掛金)、その次に棚卸資産(商品、原材料等)が並んでいて、その下にもいろいろな勘定科目(商品、原材料、建物、機械、車両運搬具等)が並んでいます。

資産の部にある現預金や売上債権等の一部を除き、資産は費用化(商品なら売上原価、固定資産は減価償却費)して売上を獲得していきます。そして、売上債権が発生し後に資金化され、給料や仕入そして諸経費の支払い、金融機関への返済に充て、残りを自己資金として蓄えたり、次の仕入れや設備導入に使うことができます。

しかし、貸付金はこのように経営に貢献しているでしょうか。確かに利息を受け取り、かつ短期間に返済してもらえるケースはあるかもしれません。しかし、その多くは経営者の私的なことに使われ、利息どころか返済すら困難になっていることがほとんどでしょう。

手持の現預金が潤沢で、経営者への貸付金が多額になっても、経営にまったく影響が出ないならそれでもいいでしょう。しかし、そうでないのに金融機関から調達した事業資金を個人への貸付金に流したのなら、新たな資金調達が必要になります。

金融機関への利息支払いや返済も発生しますので資金繰りを悪化させます。だから貸付金はいけないのです。

なお経営者への貸付金がやむを得ない場合もあります。例えば、自社の株を経営者が買い取りたいが、手持資金がそれほどないので、企業から経営者に貸付け、毎月の役員報酬から返済していく、こういうことなら自社の経営安定のために必要ですから仕方のないケースでしょう。

今後の資金調達に影響

金融機関も貸付金残高が膨らんでいけば、経営者に詳細をヒアリングしてきます。そして、資金使途を運転資金と偽って融資を受け、経営者個人に流れていれば資金使途違反になりますから、悪質であれば金融機関は融資をストップしてきます。

少額の貸付金にまで口は出さないですが、無視できない金額になってくれば審査が保守的になりますし、融資が出ない可能性は高くなるのです。

当社顧問先のケースですが、月商約400万円、貸付金残高もほぼそれぐらいに増加した頃、信用保証協会からこれ以上増えると保証はできないと言われました。

他の顧問先でも月商500万円、貸付金450万円があったところ、メインバンクから貸付金の内容について質問を受けたことがあります。明確な基準があるわけではありませんが、月商程度の残高になったら注意したほうがいいかもしれません。

役員貸付金の残高が多いことについて指摘を受けたら、ある程度解消するまで融資が出ない可能性は高いです。

特に信用保証協会から指摘されてしまえば、どの金融機関に相談しても保証協会の利用を求められたら、しばらくは融資が受けられないということです。

企業が事業資金として調達した資金は、必ず自社の経営のために使いましょう。

解決策

経営者への役員貸付金は原則発生させないことですし、やむを得ない場合があったとしても、原則として短期で返済してもらえる場合に限定すべきです。

すでに発生してしまっているのなら、次の方法で残高を減らしていくしかありません。

経営者個人の資金で返済

経営者個人の資金で返済します。これがもっとも手っ取り早い方法です。しかし、それだけの資金を持っていないことも多いでしょう。

役員報酬から返済

早期に返済が不可能であるなら、毎月発生する役員報酬の一部から返済してもらうことが一般的です。

今後は貸付金を発生させないよう現金管理をしっかり行えば、残高は減少していくことになります。

しかし、返済分を考え役員報酬を増額すれば、社会保険料や税金負担も増えることになります。

役員賞与(事前確定届出給与)を使えばより多くの返済をすることができますが、やはりその分だけ社会保険料や税金の負担は増えます。

また、役員退職金で返済する方法もあります。多額の貸付金を消すのには向いていますし、社会保険料はかからず税金でも優遇されます。しかし、退職金ですから、今後は原則として役員報酬を受け取れなくなりますし、高齢の経営者が後継者のために採る選択しでしょう。

外部から借りた資金で返済

経営者が外部から借りて自社に返済する方法です。一気に貸付金を消し去ることができますが、経営者は返済と利息支払いが発生します。

その分だけ役員報酬を増額する必要が出てきますから、やはり社会保険料や税金の負担も増えることになります。

最近はあまり聞かなくなりましたが、貸付金の解消に保険を利用する方法があります。大きな流れとしては一緒です。

多少の違いはありますが流れとしては、経営者がノンバンクから資金を調達し企業に返済することで貸付金は解消されます。

そして、企業には一時払いの保険に加入してもらい、それを経営者が返済する借入金の担保とするというものです。

確かに貸付金より保険積立金の方が評価はいいかもしれませんが、ノンバンクへの返済から役員報酬を増額する必要が出てくればかえって経営を悪化させる結果になります。

役員貸付金についてまとめ

このように経営者への役員貸付金は、自社の資金繰りを悪化させ、かつ金融機関からの資金調達に悪影響を与える可能性が高く、発生させてはならない支出です。

絶対に発生させない、すでに発生しているのなら直ちに減らすように努力してください。短期間に0円にはならないにしても、毎月減らすようにだけはしてください。