短期継続融資による正常運転資金の調達

資金繰り予定表 銀行融資

中小企業の資金調達は、資金使途と調達方法が合っていない事が多く、それが原因で資金繰りが忙しくなってしまっている企業を多く見受けます。

中小企業の決算書を見ると、借入金の多くが長期借入で、資金使途が運転資金であっても期間は5年以上が少なくありません。おそらく5年~7年程度の証書貸付で対応している銀行が多いと思います。

借入期間が長いほど毎月の返済額は少なくて済みます。しかし、借入金残高が多く、利益はマイナスあるいはプラスであっても返済額に満たない中小企業が多いのです。毎月の返済額がキャッシュフローを超える場合、それを放置し続ければ資金繰りに窮してしまうことになります。

正常運転資金とは

正常運転資金(経常運転資金ともいいます)は、多くの企業で必要とする資金使途です。

一部の業種を除いて、企業の多くは商品、原材料、部品等の仕入、外注費の支払いが先行し、その後に売上金の回収がなされることになります。

売上金の回収が行われると、減った商品、原材料等を補てんするために次の仕入への支払が行われることになります。支払いが先行し回収が遅れるこの収支のズレは、取引条件が変更されない限り事業終了まで解消されません。

決算書の貸借対照表には、売上債権(売掛金、受取手形等)、棚卸資産(商品、原材料等)、仕入債務(買掛金、支払手形等)が載っていると思います。

一般的には、正常運転資金は「売上債権+棚卸資産-仕入債務」により求められ、その分だけ、常に企業は資金繰りが苦しくなります。

※当社ホームページでも「正常運転資金」を説明したページがありますので参照してください。

資金繰り表

短期継続融資の活用

正常運転資金は、企業が事業を続けている限り必要な資金となります。したがって、借入金でも擬似資本的な性質である事が求められ、資金繰り安定のためにも、約定弁済をするべきものではないのです。本来は、利払いだけで元本返済不要な短期継続融資(手形貸付等)で資金調達するべきなのです。

短期継続融資とは、この正常運転資金に対応する資金を融通するための融資で、期日一括返済を条件とした1年以内の短期融資をいいます。事業を継続している限りは原則として返済はせず、利息の支払いだけであることから、資金繰りの改善につながります。

借入期間は1年以内(半年あるいは1年)とし、期限到来時に業績等に大きな変化がなければ同額での継続融資となります。業績が拡大していればその分さらに運転資金が必要となり、縮小すればその分だけ運転資金は不要となりますから、正常運転資金に対応した借入金額で継続借入ができます。

金融庁もこの短期継続融資の活用を促しています。金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」に、この件に関する事例を追加し、以下の趣旨を明確化しています。『平成27年1月20日、「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」への新たな事例の追加について』より

1,正常運転資金に対して、「短期継続融資」で対応することは何ら問題ない。

2,「短期継続融資」は、無担保、無保証の短期融資で債務者の資金ニーズに応需し、書換え時には、債務者の業況や実態を適切に把握してその継続の是非を判断するため、金融機関が目利き力を発揮するための融資の一手法となり得る。

3,正常運転資金は一般的に、卸・小売業、製造業の場合、「売上債権+棚卸資産-仕入債務」とされているが、業種や事業によって様々であり、また、ある一時点のバランスシートの状況だけでなく、期中に発生した資金需要等のフロー面や事業の状況を考慮することも重要である。

普及にはまだ時間がかかる?

しかし、銀行は依然として、経常運転資金に対応する融資を約定弁済付の長期融資で対応することが本当に多いです。

こういう短期継続融資は、私が銀行に入った頃は手形貸付で対応している融資先が多くありました。しかし、金融検査マニュアルが導入されて状況が一変しました。

書換えが継続されている手形貸付の一部を貸出条件緩和債権に該当するとの判断が出されてしまったことが原因です。その結果として、各銀行は不良債権扱いされるリスクを避けるため、毎月の約定返済を要する証書貸付(しかも多くが担保や信用保証協会付き)で対応するようになったのです。

約20年近い期間、証書貸付で対応してきたのですから、金融庁がOKと言っても、すぐに対応を変化させることが難しいのかもしれません。徐々に対応するケースも出てきましたがまだまだといった感じです。

ただ、銀行というところは、他行がやり始めるとすぐに動き出すものです。今後は徐々に取り扱が増えてくると思います。

みなさんからすると、期日に書換えを受けられないという不安があるでしょう。その可能性は0%ではありませんが、極めて低いと考えます。それに、もし書換えによる継続が認められないとしても、通常は全額回収ということではなく毎月の返済で対応となるはずです。

まだ銀行によって対応に温度差はありますが、資金繰り安定のためにも、自社でも利用できないか相談してみるといいでしょう。そのためには、企業は売上債権や棚卸資産の内容を定期的に公開するといった姿勢が必要です。