赤字工事を受注する建設会社

中小企業経営

今現在、当社の顧問先に建設会社はないのですが、以前「今回の現場は赤字だけど、これを請けることで今後の(利益が大きい)仕事につながる」「大手の〇〇建設から大きな仕事がもらえるんだ 」といった内容を口にする経営者がいました。

顧問先は赤字になると分かってあえて受注していましたし、大手企業からかなり高額な工事を請け負ったものの、従業員や外注先への支払い、そして大手企業社員への度重なる接待をしたら、売上高が大きいだけで結局は大赤字だったなんてこともありました。

その結果、どんどん決算書の内容は悪化し最後は倒産に。

建設会社で見られる経営課題

そんな建設会社が抱える経営課題は次のようなものでした。

利益が非常に低い

当社のようなコンサルタント会社に相談される企業ですから、赤字企業や資金繰りに大きな問題を抱えています。そんな企業に共通する経営者の代表的な問題点は売上高にしか意識が向いていないことです。

売上金額しか見ない経営者

経営者に「御社の売上高はいくらですか」と聞いてみるとすぐに数字を言えます。しかし、売上総利益(粗利益)、営業利益、経常利益は把握していません。しかも後でも出てきますが、粉飾決算をしているので、本当は赤字なのに前期は黒字だったと平気で言ってくる方も。

決算書では黒字あるいは赤字であっても、工事ごとの採算を見る必要があります。すると赤字になっているものがありますし、黒字であっても極めて少額なことも。そこから販管費や借入金の利息支払い、そして金融機関への返済をしなければならないのですが、そこまで考えていないようなのです。

売上至上主義

これは売上至上主義が原因です。建設会社の経営者は多くが売上高しか見ません。売上高が増加していれば、利益もそれに比例して伸びていくだろうという考えでいるのです。

それに公共工事を受注している建設会社では、「経営事項審査(経審)」にも問題があるのですが、審査の内容で売上高のウエイトが大きいため「とにかく売上」と意識するのもやむを得ないのでしょう。

自社を大きく見せたい経営者なら、同じ地域のライバル企業に売上高で負けたくないというプライドも影響します。

赤字工事は経営に悪影響しかない

これから仕事量の先行きがやや不安な時、利益があまり出ない工事を避けて社員が遊んでいるくらいなら、現場を動かしたほうがいいと考える経営者がいます。

工事原価は大きく労務費、材料費、外注費、諸経費に分けられます。その中でも労務費は社員の人件費ですから売上高に関係なく発生する固定費であり、それ以外は工事がある時に発生する経費です。

思うように仕事を受注できないため、損失が発生すると分かっているが受注したとしましょう。変動費の材料費、外注費、諸経費、そして労務費の一部をカバーできているのなら、仕事が0よりかは固定費(労務費)の一部を賄えているのですからまだいいかもしれません。

しかし、労務費を全くカバーできないどころか、材料費や外注費、諸経費を自社がかぶることになってしまうようでは、そんな仕事はやらないほうがいいでしょう。

やむを得ない事情でそのような工事を受注することがあっても、やはり正しいのは労務費を含んだ工事原価を上回る受注をしなければなりません。

最初にも申し上げましたけど、この仕事は赤字だけど、次はいい仕事がもらえそうなんだ」と言ってくる経営者がいますけど、もちろんそういうケースを見たことがありますけど、ほとんどはうまく利用されているだけのように思います。

発注者からすれば、「うちに協力してくれるいい会社だ。これからは儲けの多い仕事も頼もう」と評価することはなく、「安請け合いする都合のいい会社だ」程度にしか思われていません。

平気で粉飾決算を行う

利益よりも売上高重視の経営をしてきた結果、決算書を作成してみたら赤字になってしまうかもしれません。それでは経営事項審査においてマイナスに作用しますし、金融機関からも厳しい対応を受ける可能性があります。それでは長期返済の融資だけでなく、短期のつなぎ融資も難しくなる可能性が出てきます。その結果、経営者がやることと言えば粉飾決算です。

流動資産に問題が出てくる

粉飾決算は建設業に限らずどの業界でも行われている問題です。売上高などの金額を操作して黒字に見せかけます。売上高なら本来は翌期に計上すべきものを当期に前倒し、売上原価は未成工事支出金に振り替えて翌期に先送りします。当然両方行うこともあります。さらには契約もしていないのに売上計上することもあります。

粉飾決算が少額あるいは始めたばかりだと分かりにくいかもしれませんが、当社へ相談に来られる頃には誰が見ても粉飾しているのが明らかな決算書になっています。

売掛金が売上高と比較して異常に増えていきます。そして、まだ完成していない工事にかかった経費は未成工事支出金(製造業でいう仕掛品)として処理するわけですが、本来計上すべきもの以外にものせていき、明らかに売上高とのバランスがおかしい残高になっているのです。

本当の数字が分からず対応が遅れる

建設業では年間の工事件数は景気の影響などもあって増減するでしょうから、売上高が十分に確保できない年はあります。しかし、経審の点数に影響を与えたくないため利益よりも売上高の確保を優先します。

その結果、ある程度の売上高は確保できますが、赤字の工事も出てくるため利益額は減少します。固定費が中心の販管費をカバーできない売上総利益になることも。

売上高の確保が優先ですから、資金繰りのことも考えないで受注した影響で資金繰りが悪化してきます。それでも売上高が確保されていること、借入金がまだそう多くなければ、金融機関は融資をするかもしれません。

そして利息の支払いや返済が徐々に負担となり、それを何とかしようとさらに売上高の確保する面が大きくなっていきます。

とにかく工事を受注して売上高を確保、経営努力で利益を出そうとしますが、採算が厳しい工事でも受注するので赤字工事の割合が次第に高くなります。

借入金残高は増加、そして手持資金は減少、融資の申し込みが増加することから、金融機関は次第に怪しいと感じ、受注物件一覧表、資金繰り表などの書類提出が今まで以上に増えてきます。質問があってもうまく説明ができなくなってくるでしょう。

決算時期が近づいてくると、今期は赤字だと分かり、金融機関対策そして経審のことを考えて赤字を避けるために粉飾決算が始まります。

だいたいはそこから立て直すことができず、ずるずるとそれを繰り返し誰が見ても大幅な粉飾をしていることが明らかな決算書になります。

経審のほうはそれでいいとしても、金融機関は返済をストップすることには応じてくれますが、追加融資はしてもらえないため受注にも影響が出ます。かなりの経費削減や資産売却などを行ってもそのうち行き詰る結果になるのです。

売上高よりも利益重視で

こんな不幸な結果にならないためにも、売上高ではなく利益を重視する経営をするべきです。

採算の取れない工事は受注してはいけないし、利益を考えずに売上高がいくらかを目標に

すべきではありません。販管費や支払利息、そして年間の返済額から目標とすべき利益を計算し、そこから売上高を求めるようにしましょう。

売上高が10億円あっても利益が赤字よりも、売上高が5億円でも利益が5千万円あったほうがいいのは誰でもわかることです。利益額を目標にすることで売上高が減少するのは不安でしょうが、生き残るためには利益を重視した経営をしてください。

そして粉飾された数字では何の役にも立ちません。粉飾決算すると自社が非常事態にあるのが分かりにくくなります。そんなことはせず現実の数字を見て経営を改善するようにしましょう。