自己資本について

資金繰り

金融機関が決算書を受け取ると必ずチェックするのが自己資本です。

自己資本とは

自己資本とは貸借対照表の右下にある純資産のことです。貸借対照表は期末時点での財務状態を表し、右上には負債があり、右下には純資産があります。さらに純資産は資本金、利益剰余金(税引後利益の累計)などで構成されています。

負債との違い

負債には買掛金や未払金、借入金等、これから支払うあるいは返済するもので構成されています。しかし、自己資本はその必要がありません。

当たり前のことですが、貸借対照表の右側は、負債より自己資本(純資産)の多いほうが経営の安全性は高いのです。

それに金融機関からの融資は、毎月の返済が精神的にも負担に感じるでしょうが、増資ならその心配はありません。

自己資本は定期的にチェック

ただ、そもそも中小企業では多くの出資者を募るのが容易ではありません。特に中小企業では株主が経営者1人、せいぜい家族だけが出資している程度が多いですから、どうしても経営に必要な資金を金融機関からの借入金に依存しなければなりません。したがって、自己資本は負債に比べ少ないことが非常に多いのです。

それを改善するには出資以外には、利益を出し続けて自己資本を厚くするしかありませんが、決算書等の数字が苦手な経営者は、売上や利益がいくらかに関心を持つものの、この自己資本がどうなっているかあまりチェックしない方が多いようです。

しかし、自己資本は経営の安全性を見る上で重要ですから、少なくとも決算書が完成した時には過去と比較して確認しましょう。

自己資本は金融機関も重視しますから、これからの資金調達にも影響を与えます。

自己資本比率

自己資本に関する重要な財務指標に自己資本比率があります。

自己資本比率とは、経営の安全性をチェックする財務指標です。総資産(負債+自己資本)に対する自己資本の割合のことであり、計算式は次のとおりです。

自己資本比率=純資産÷総資産×100(%)

返済義務のない自己資本(純資産)が多く、負債が少ない方が経営は安定しますから、高いほうがいいということです。安全性を見るうえで金融機関が重視する財務指標です。

50%を超えれば負債よりも自己資本が多いのですから優良企業です。しかし、多くの中小企業にとって容易な数字ではありません。それを目指してもいいのですが、30%以上で安全圏になる目安かと思います。

一ケタ台や債務超過(自己資本がマイナスの状態)ならば、まずは10%、そして徐々に30%以上を目標にしていきましょう。

自己資本比率の改善方法

自己資本比率は経営の安全性や銀行融資に大切な指標です。では自己資本比率を適正な水準にするためには何が必要かを解説します。

増資

手っ取り早く改善する方法は増資です。

経営者が自身の自己資金を投じる、あるいは株主を募集する方法もあります。しかし、中小企業では多くの出資者を募ることは難しいでしょうし、株主が増えることは経営支配にも影響が出てしまうデメリットがあります。

利益を出す

この利益を出すことは地味で時間もかかりますが最も重要な方法です。利益を積み上げていくことで利益剰余金が増え、自己資本の改善につながります。

増資で自己資本を増やしても、利益剰余金が増えていなければ、法人を設立してからそれほど利益を生んでいないことになります。もしマイナスなら設立からこれまでのトータルは赤字ということです。

過度な節税はしない

節税を全くしてはいけないという意味ではありません。今後必要となる消耗品等の購入で経費を使い節税するのはかまいませんが、節税だけが目的で経費を無駄に使うようなことは、利益を減らしますから自己資本の増加にはなりません。金融機関の評価にも影響しますから注意しましょう。

役員借入金があれば債務免除

資金繰りに悩む中小企業で時々見かける勘定科目が役員借入金です。あるいは短期・長期借入金の中に経営者からの借入金が含まれていないでしょうか。

この借入金について返済を免除してもらう方法もあります。

ただし、債務免除益という収益が発生しますから、法人税等の納税が発生する可能性があります。これまでの経営が不調で繰越欠損金があるのならそれは避けられるかもしれませんが、経理社員や顧問税理士にもよく確認してください。

高い自己資本比率で得られるメリット

利益計上や増資によって自己資本比率が高くなれば、経営の安全性が向上するだけでなく、金融機関からの資金調達も好条件になります。

例えば、調達できる金額は増えるでしょうし、低金利や経営者保証不要等の条件面も有利になります。これまで信用保証協会付ばかりだったとしても、プロパー融資での資金調達も可能となるでしょう。

資金にも余裕ができれば好条件で従業員を雇用できますし、設備購入など前向きなことに資金が使えるようになりますから、経営はより良い方向に向かっていきます。

ぜひ自己資本を増やすための経営を意識するようにしてください。

自己資本比率よりも大切なもの

自己資本比率は高いほうが経営は安定していると申し上げました。しかし、意識し過ぎるのも問題です。

例えば、事業拡大時には多くの資金が必要となり、借入れによる資金調達が必要な時もあります。結果として借入金が増加し自己資本比率は低下しますが、これはやむを得ないことです。

それに借入れを極端に避ける経営をすれば、ビジネスチャンスを逃しますし、手持資金が少なくなれば資金ショートの可能性も出てきます。経営者は資金繰り対応で頭を悩ます時間が増えるので、経営にも悪い影響が出てしまうのです。

他にも、経済危機や自然災害の発生により景気悪化が見込まれる時、借入金が増えてでも手持資金を厚くしなければならないケースもあります。

それらの結果、自己資本比率が減少することはありますが、それ以上に資金繰りが重要です。手持資金にはゆとりを持たせるようにしてください。