役員報酬とは取締役や監査役に支払われる給料のことです。
金融機関は、損益計算書では売上高や各利益を重視しますが、経費の中で役員報酬は注目する勘定科目の一つです。損益計算書では総額で表示されていますが、決算書の後にある勘定科目内訳書で、誰にいくら支払われたか確認する事ができます。
金融機関は基本的に何も言わない
金融機関は、経営者がいくらもらっていようと基本的には文句を言いません。株主ではありませんし、返済が順調に進んでいるのなら言える立場にはありませんから。
しかし、企業業績と比べ明らかに高額で、それが原因で赤字になっている場合、今後の金融支援を求められたら金融機関は次のような対応をしてくるでしょう。
役員報酬が異常に高い場合
どんなに役員報酬が高額でもしっかり利益が出ており、返済が滞りなく進んでいるのならいいのです。しかし、高額な役員報酬が原因で赤字になってしまい、その状態でリスケジュール(返済条件等の変更)を金融機関に依頼するような場合、担当者は何と思うでしょうか。
おそらく「こんな高い役員報酬を取っておいて、当行には返済額を減らして欲しいなんてふざけているのか。まずは自分の役員報酬を減額しろ」です。資金繰りが苦しくなり、取引金融機関に支援して欲しいとお願いするのなら、まずは自分自身が努力してからお願いするものだと考えます。したがって、役員報酬減額を条件にしてくることもあります。
なお、業績悪化に苦しんでいても、世間と同程度の水準であれば役員報酬のことを指摘されはしないでしょう。もちろん、生活ができなくなるレベルまで引き下げを求めてくることもありません。
役員報酬が異常に低い場合
業績が悪化してくると、黒字にするために役員報酬を引き下げることがあります。それでも利益が出ないからと大幅に削減すれば利益を出しやすくなりますし、役員報酬を大幅に減額すれば社会保険料や個人の税金を減らせる効果もあります。
それが悪い訳ではありません。以前お手伝いしていた顧問先でも、年間100万円程度(月8万円程度)の役員報酬にして、法人個人の税金と社会保険料を抑えた経営者はいました。
源泉所得税が発生しないよう月8万円、年間100万円程度までに役員報酬を減額すれば、確かに税金等の支出を抑えるのには有効です。しかし、それで利益が出たから当社は黒字企業だと言いたくなるでしょうが、そうはいきません。
それでは生活ができませんし、(人にもよりますが)生活を維持するために月30万円必要だとしたら、役員報酬を22万円増額して考える必要があります。
その結果、実態は赤字企業と判断されてしまう可能性があります。経営者が独身で家族がいないにしてもそれでは生活ができませんから、実態は赤字であるとみなすことができるのです。
役員報酬未払金や役員借入金が大きく減少していないか
これまで述べたように、経営者は金融機関から金融支援を受けようと役員報酬の減額を行い、金融機関にアピールするかもしれません。
減額後の役員報酬で生活をしているのなら、金融機関も前向きに評価するでしょう。しかし、
削減後の役員報酬では生活ができず、減額した分を過去に受け取れなかった報酬(決算書には役員報酬の未払分として負債に計上)を受け取っていたり、企業への貸付金(決算書には役員借入金として負債に計上)を返済してもらって、生活レベルを維持していることも多いでしょう。または企業から経営者への貸付金が発生しているかもしれません。
これでは損益計算書は黒字計上、または赤字幅の減少が見られたとしても、役員報酬以上の資金流出が発生しておりキャッシュフロー上は改善されていません。これでは減額前と実質的に同じであり評価できるものではありません。
金融機関は、役員報酬額がいくらかだけでなく、経営者への資金の流れもチェックしていると、認識しておいたほうがいいでしょう。
自社の必要売上高はいくら?
経営者として様々なリスクを抱え、かつ借入金の保証人にもなって、少額の役員報酬しか受け取れない経営は正しいとはいえません。
もし、高齢で年金をもらっている、または所有不動産からの家賃収入があるので生活は成り立つ、等の理由があるのなら問題はないかもしれません。しかし、経営者として頑張っているのなら、それに見合った役員報酬を受け取れる経営を目指すべきです。
適正な役員報酬を受け取り、かつ経常利益がプラスになる売上高はいくらなのか計算してみましょう。
例えば毎月発生する固定的な経費が940万円、借入金の支払利息が10万円、必要な役員報酬50万円、合計1,000万円が毎月発生、そして1つ8万円の商品を10万円で販売しているとします。1つ2万円の利益が出るのですから利益率は20%です。
では毎月1,000万円の固定費を賄うには同額以上の粗利が必要です。ということは「目標売上高×20%=1,000万円」、つまり目標売上高は5,000万円以上必要です。
詳しくは損益分岐点売上高のページを参照してください。
ここでは説明を単純化するため借入金返済を考慮していませんが、意外と自社はいくら必要なのかよく分かっていない経営者さんがいますし、ひょっとしたら頭の中の数字と実際の必要額が違っているかもしれません。念のため一度計算してみることをおすすめします。
役員報酬は税務上も注意
取締役等の役員も社員と同じように報酬(給料)を受け取ることはできますが、同族企業では法人税法の制限を受けます。
役員報酬は法人税法の制約を受ける
「役員報酬は毎月定額にする必要がある」と税理士等から言われたことはありませんか。それは例えば決算が近づき、予想以上に利益の出ることが明らかになった場合、利益の一部を経営者の報酬として支払い利益を減らそうとするからです。特に同族企業は経営者の好きなようにできることが多いですから、法人税額が減少するのを防ぐため縛りを設けているのです。
役員報酬額の変更は原則年に1回
役員報酬額を変更したい場合は、原則として事業年度開始から3カ月以内になります。例えば3月決算企業は5月末が法人税の申告期限になりますが、それまでに株主総会で変更が決まり、その翌月から変更後の役員報酬額がスタートする流れになります。そこから1年間は例外を除き定額となります。
もし毎月100万円を支給していたが、途中から60万円にしたとします。その場合、60万円だけが損金として認められ、残り40万円が損金算入は認められないことになります。なお、損金とは税務上の経費とお考えください。
以前、法人会のセミナーで税務署の職員さんから聞いた話なのですが、業績が特に悪い訳でもないのに60歳ぐらいの経営者が期中に役員報酬を引き下げるケースがあるとのことです。
その理由が、年金をもらうのに報酬が高額だと年金支給額に影響が出るということで、社会保険労務士の指導で期の途中だけど引き下げたという事が意外とあるそうです。その場合、元の額と引下げ後との差額が損金不算入(税法上、経費として認められない)となってしまいます。
事前確定届出給与
事前確定届出給与という支給方法があります。税務署にあらかじめ決められた金額を所定の時期に支払うと届け出ることで、例えば賞与支給月に役員も増額した役員報酬を支払うことができます。
期中の減額が認められるケース
業績が大きく悪化したことにより、決めた報酬金額の支給が困難となってしまい、減額したい場合があるでしょう。
このような期中の減額改定ですが、「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」に該当すれば認められます。例えば、次のような場合です。
1)株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
2)取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
3)業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
国税庁ホームページ 役員給与に関するQ&Aより
このように、経営の著しい悪化により、銀行へのリスケジュール交渉の中で、自身の役員報酬減額も必要となれば引き下げは可能でしょう。
役員報酬については、税務調査でも問題になりやすいところでしょうし、税務署も目を光らせるところです。
当社は税理士事務所ではありませんので、税務に関する詳しい内容は必ず税務署や税理士によく確認してください。