貸出金利の引き上げ

銀行融資
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私はある金融機関で定期積金をしているのですが、今年2月までは金利が0.075%だったものが3月を見たら0.2%に引き上げられていました。

日本銀行のマイナス金利政策解除を受け、金融機関は預金金利を大幅に引き上げています。ということは、貸出金利もこれからは引き上がるということです。すでに金利引き上げを求められた企業も多いでしょう。

貸出金利を構成する3要素

貸出金利は主に次の内容から構成されます。

資金調達コスト

金融機関は主に企業や個人から預金を集め融資の原資としています。預金者には利息を支払わなければなりませんから、その分を貸出金利に含めなければなりません。多くの企業でいう仕入に該当します。

人件費などの諸経費

金融機関も多くの企業と同じように、人件費や地代家賃、水道光熱費、通信費などのコストがかかります。それを利息収入で賄わなければなりませんから、その分を貸出金利に含める必要があります。

貸し倒れリスク

融資を受ける企業は金融機関から格付けされています。決算書が重要というのはよく知られていますが、経営者の経営能力、企業の持つ技術力や営業力、資金繰りなども含めて企業を格付けします。

業績が好調で格付けが高いということは、融資した資金の貸し倒れリスクが低いのですから、それだけ回収リスクを金利に反映させる必要性は低いでしょう。しかし、赤字が続いているなど経営が不安定な企業では低格付けにせざるを得ません。リスクが高いのですからそれを反映させた高い金利にしなければなりません。

取引状況なども考慮

主にこれまで述べた3つに利益を乗せて貸出金利は決まります。それ以外にも企業から受け取る各種手数料収入、預け入れている預金残高等の取引振り、そして他行の動きも影響します。優良企業にはあまり金利引き上げを強くは言えないでしょうし、経営者が納得しなければ他行に借り換えをされてしまう可能性があるからです。しかし、低格付けの企業には

そこまでの遠慮は不要となるでしょう。

調達コストの上昇が主な理由

今回の貸出金利引き上げは、マイナス金利解除に伴う金利引き上げにより調達コスト上昇がまず大きな理由です。

それに最近は倒産件数が増加したという報道を見ることが多いかと思います。倒産には至らなくても、原材料や人件費の増加による業績悪化も増えていますから、企業の格付けがダウンすることにより信用コストも上昇しています。

調達コストや信用コストが大きな理由ですが、それに加えて金融機関も良い人材を確保するため人件費を見直さなければなりません。

それらの理由により、金融機関は貸出金利を引き上げる方向に進まなければなりません。

しかし、金融機関の行員も金利引き上げ交渉の経験がないため、説明に戸惑うことも多いようです。金利引き上げにより融資先を他行に取られる不安を抱えながらも、低金利で融資量を獲得するような営業を改め、適正な金利を提示する動きが進んでいくと考えます。

企業がやるべきこと

金融機関の事情は理解できますが、支払利息の負担が増えるのですから企業としても対策を取らなければなりません。

適正な利益額の確保

みなさんは対応されていると思いますが、人件費や仕入原価が増加しているにもかかわらず、販売価格に転嫁できない中小企業がいまだにあります。人件費、商品や原材料などの原価が増加しているのなら、適正な利益額が確保できるよう価格見直しをしなければなりません。

「値上げなんてしたらお客さんが逃げちゃいますよ」と言ってくる経営者さんがいますけど、従業員に満足できる人件費を支払わなければ退職しますし採用にも影響します。原価上昇分を価格に反映させなければいつまで経っても利益は出ませんから、倒産に向かうのをじっと見ているだけです。

そんな経営を続けていけば、いずれ金融機関から融資が受けられなくなります。

しかし、金融機関から融資を断られ追いつめられると、今までお客さんが離れると言っていた企業でも、販売価格を急に見直すようになります。断言はできませんが、当社の顧問先を見ていると、売上先に価格交渉を行いほとんどは新しい価格を受け入れ取引を継続してくれています。ちなみにその顧問先は運送業、建築資材の製造業です。

仕入価格、人件費、他の経費も増加する傾向にありますし、それに加えて金利引き上げですから、それをカバーできるだけの利益額を確保する経営をしなければなりません。

もし金融機関から金利引き上げの相談があった時、その理由が自社の経営悪化による格付け引き下げによる信用コストの上昇であれば、なおさら早期に経営を立て直さなければなりません。

それであればこれから経営を立て直すことで格付けが見直され、金利上乗せを今後抑えることが可能ということです。金利引き下げの交渉が可能となります。

すぐに同意しない

「金融機関を怒らせて今後の融資に影響するのは避けたい」との理由から、金融機関の提案をすぐに受け入れるようなことは避けましょう。すぐには同意しないことです。少しは交渉しましょう。

それによって引き上げ幅を縮小させることができる可能性がありますし、何でも言いなりになっていると、「あの社長は何でも受け入れてくれる」とのイメージを植え付けることになります。

経営悪化時でも支援してくれる金融機関をメインに

ただ、金利引き上げ交渉を完全に拒否するのは利口ではありません。金融機関は儲けが出ない融資先と取引してもメリットがないのですから、取引解消も仕方ないと判断されるリスクがあります。

金融機関とは長い付き合いをしていく必要があります。どちらかだけが儲かるという関係ではいい付き合いはできません。

企業は金融機関に適正な金利を支払い、その代わりに自社が困った時には支えもらえる関係を目指しましょう。そして、企業支援に熱心な金融機関とメイン取引をしてください。日頃「当行はメインバンクだから」と言いながら、いざとなったら逃げる金融機関がありますから注意してください。